「木」と建築「木」の文化伝統文化木工

李朝障子「ワンジャモン」の復元伝統意匠

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

正調韓国障子の骨組み・組子 ワンジャモンは「用」之字が基本

温床(オンドル)渋油紙張りの床に韓国紙を壁と天井貼り包みにし、外開口部・窓は雨戸(観音開き・蝶番吊り)の内側に襖引き戸・障子が入ります。室内装飾に組子が大きなデザイン要素となり、それぞれ模様に意味があるのです。

寒い冬をしのぐため襖と二重の引き戸で断熱構造になっています。和室は床壁天井がそれぞれ違う素材構成ですが、韓室はオンドル床暖房ですので熱を逃がさない壁・天井が連続した紙総貼り仕上げ。初めはカプセルの中にいるような感じになりました。

雨期には、湿気を取るために夏にもオンドルに火入れします。冬には、衣類や布団がぬくとく、体によいフローアーヒーティングシステムですが焚き口が部屋の外にあり、灰の始末などお手伝いさんは大変でした。寒い冬のTV ドラマに薪炭運びや煙道煙突から煙が出てこないのが不思議。

李朝障子 -1-1

卍字錦

 

韓国障子- 2-1 韓国障子 -3-1

李朝障子-4-1

 

李朝障子 -6-1 李朝障子 -5-1

 

昌徳宮 秘苑 演慶堂内部 Dae Jo Jon 実測19710221 – 0310

外骨・内骨の違い

韓国では、障子骨組みを外側に向ける

障子の骨組みは、外部に出して手漉き韓紙を内側にはるので日本と反対向き。住まいの外観を整え、外部から美しくみえる配慮です。
骨組みが室内に有ると埃が積もり、大気が乾燥しているソウルなどでは手入れも見栄えも外骨が合理的。骨外側は、化粧面取り仕上げ。室内は、壁紙で部屋全体を袋貼りしますので障子紙の面積も同じような紙のテクスチュアが連続し一体で仕上げる。紙で囲まれた空間は、手漉き紙に骨組み・格子が透過し、独特の柔らかい雰囲気を醸し出します。
オンドル床面は、渋紙に植物や魚油を染みこませた油紙を貼り敷き詰め。障子の納まりは、つり込み段欠きが殺ぎ削り合わせです(寒気遮断の工夫)。朝の爽やかなる国、朝鮮半島の風土に適したオンドル床暖房は、心地よく、優れた住まい文化です。開口部建具に独自のデザインを施し、家を立派にみせる伝統様式です。
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昌徳宮 秘苑 演慶堂(国宝)内部  修復前   710221ABE

日本では骨組み・組子を室内側にみせる

和室壁面は土壁か板張りで、軸組・柱・敷居鴨居が露出します。建具の構造も部材が接続するとバランスよく、障子戸は和紙を部屋の外側に貼って骨組みが室内にみえるほうが空白にならず、視界的に安定します。
湿気の多い風土ゆえ、風通しがだいじです。内向きの日本障子と外向きの韓国障子の根本的な違いは、外に見せようとする意識と内部への思い入れの違い、室内の構成・素材と建具の納まりからくる秩序感覚の現れ方と思います。ABE説

夜の人家の障子や格子灯りは地域を彩る照明装置

数年前、近くの山辺温泉に訪れた韓国婦人が「日本の民家は夜がきれいでない」と言います。その訳は、窓の明かりが暗い(カーテン締め)ので里の風景が物足りないという印象。外にも灯りを向ける、住まいを照らす生活文化が違うのだと感じました。
韓国の地方では、家々の障子明かりの夜景は人里の平穏な生活や佇まいを演出してくれます。韓国では、外観に気張り、家造りが甲斐性です。こだわりの普請、見栄えや素材の産出地も尊重するので諺に「家を二度建てると白髪になる」と施主は語ります。家造りは構えが一番重視され、主の実力・ステイタスを誇示する格式です。
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・薛氏邸  Seoul Korea  S: 新建築  1972年2月号  住宅特集

ソウルでのもう一つの仕事 1970 -1971

韓式・李朝室内意匠は、家具・照明・文房具・屏風・ボリョウ(座布団・マット+背もたれ)に障子が組み合わさます。滞在中に東京で世話になっている美術建具製作・八丁堀の下田さん(新宮殿建具など担当)経由でソウル中心部に建設中の邸宅内装木工事・家具装備の面倒見てもらいたいという依頼があり、こちらの現場も担当しました。
設計は、フランクロイド・ライトに師事した星島光平建築設計事務所です。私は、家具設計・内装工事を担当。当時、李朝家具・美術の調査・研究を進めておられた国立博物館美術課長(後の博物館長)崔淳雨 先生の指導のもとに正調なスタイルを再現することになり、ワンジャモンの文化財実測・パターン収集・分析をはじめ、この建築に伝統的な韓室ゲストルームを設計しました。
最近の韓国時代ドラマでは、宮殿の扉格子・室内・ワンジャモンが平民スタイルなので気になります。研究資料・時代考証のために李朝様式の基本パターン図面・実測を掲載しました。

骨割り(障子・骨組み)は「用」の字が基本 / 崔 淳雨 説

韓国障子 骨割り 1971-1

韓国障子の意匠は、用の文字を基本割りにつかい、バリエーションが拡って様々な組子模様が派生しました。民間人の住居には「韓」之字くずしの骨組みが一般的です。(「韓」文字には目出度い意味が有ります。)木建具は、朝鮮五葉松・赤松・鴨緑江松等が使われていました。

*アイキャッチ画像は、「手漉き韓紙・青磁色染め」ソウル特別市 朝興銀行東向かい「ソウル紙物舗」制作
寸法:54 x 59 cm  @130 – 180ウオン、オンドル(温床)油紙(渋紙油含浸紙)94cm x 110cm  @150 – 400ウオン(1972年11月)
* ERGOPS研究会報告 19740126   中野サンプラザ
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木の総合学研究2014 – 2019 「李朝木工・室礼」「韓室建具・障子組子」

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