「木」とともに生きる「木」と食工芸日本の自然色木と人間の関わり木の内科木工薬用樹木

自然再生循環工芸素材・エネルギーセーブ 先行ECOシステム「桑の木」マテリアルコネクション・使いこなし

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

無理がなく、最も望ましい多段階自然循環系モノ造りの生業は、日本のローカルに相伝される。

桑は最有用樹であり、シルク織物産業から燃料、薬理・食品加工、工芸、農業の各分野でつながる地域循環完結の先例。Co2やゴミ廃棄物を出さず、経済的負担が軽く、無駄なく灰まで循環回帰する自然素材。「木」は、地上人間が利用しつつ再生出来る唯一の生存・生活文化資源です。

  小学生のころ、畑の中の通学路は下校時においしい道でした。五月の中旬ごろから桑の実「どどめ」は甘酸っぱいフリーおやつタイムでした。舌・口の内側が紫色に染まり、家に帰ると直ぐ「犯行」が明らかになります。
 桑は、自然林天然と養蚕畑桑が有ります。現在、「桑の木」の活用はシルク産業が衰退し、家具調度品の指物職人の手仕事も無くなりかけています。伝統木工技術を継承されてきた作り手がまだ現役ですので「桑」をめぐる木と人のかかわりを再生・循環からも再評価したい。
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 木口は、陽光酸化で濃飴色に変化します。黄金色が時間とともに艶やかな飴色に深まり、木目が美しく火鉢や内装材に使われてきました。桑材は、石灰液を塗布する呈色反応が起きます。材組織に化学反応が起きる薬理成分が含まれています。仕上げ塗装方法の一つですが、江戸指物では桑物細工を珍重、組手接合技法が発達しました。現在、下町に江戸和家具伝統技能職人が木工芸を継承しています。

山桑

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山桑樹形・幹・葉・実

山桑は森林の中で芽吹きが一番遅く、落葉も最後の広葉樹です。菌類・虫に喰われ易いおいしいため、また、最後に枯れ葉をまくのは、他の種の上にかぶせて発芽を抑える生き残り戦略でしょう。

桑の実「ドドメ」

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多摩・安曇野地方などでは共通の名称。ポリフェノール・ミネラルを多く含む、甘く野辺のフルーツ子供のおやつでした。養蚕栽培種が野生化したもの。美麻村20160614 ABE

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唐松が終わり、最後に葉を落とす山桑
桑の挽き物伝統木工芸職人 一倉 忠  群馬県沼田市・沼田桑細工

 桑は、明治時代には有用樹で建築装飾材、家具指物、手箱・箸箱、寄木、木象嵌、額縁、銃床、馬鞍、挽物、漆器、楽器、墨壺etc.木理・材色が美しく音響伝導に適するとされてきましたが、現在は、山野に材料となる良木がありません。自然資源が枯渇し、畑栽培樹も少なくなりましたが木工伝統工芸分野で挽物、轆轤を継承されている沼田の一倉 忠さん(三代目)の工房探訪・取材記録を掲載します。( 950627/970608 ABE )
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桑材は陽があたっても割れない。 荒取り後は長期自然乾燥棚ストック
作品は、挽物細工・こけしなどで桑・アオハダ・黒柿など多種・多様。
桑の湯飲みは中風を防ぐという風説があり、もてはやされた時代が有りました。
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・ストーブで出た炭は轆轤刃物の火造り鍛造に使用(手動鞴)
端材は箸・箸入れ等に。落し材・木っ端は風呂焚き燃料に。
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アオハダ ミニ茶道具セット 子供玩具
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桑柾 油壺              本桑箸
小物作品 お椀・櫃類など多種制作
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・削り屑は、工房暖房燃料の他、草木染め作家、コンニャク農家が引き取りに

奥利根地方の桑材工芸の流れ・用途循環(Resource,Reuse,Recycle)

  古代から畑桑を栽培し、養蚕用生葉を飼料とし、繭を生産。絹糸・シルク繊維、織物製品を生み出してきました。日本の着物文化は、絹の歴史でもあります。江戸時代に鎖国のはずが、フランス国内で日本の養蚕・絹織物の調査研究本がでているのです。明治の国策で絹糸・シルク織物が産業経済を振興し、富岡製糸工場がUNESCO文化遺産になりました。反面、桑の木は需要がなくなり養蚕農家も姿が消えたのですが工芸分野では未だ制作者が現役で活躍。
 桑が新しい医薬・健康食品にも活路が見出されてきていますので自然再生・循環エコ素材として再評価して注目しています。現在生業として二代目が活躍しています。沼田の轆轤工芸工房が次世代へ手渡せる自然産業文化遺産とも言えるものを継承、持続。桑の木と人のかかわりをみますと着物・食器・道具類から食品加工、治療薬、燃料、灰になるまで、いろいろな用途に使いこなされてきました。

桑材の流れ、マルチユース・行き先と循環

① 太桑丸太材引き受け、購入。秋になると伐採した幹を養蚕農家が運んで来てくれる。
② 荒取り後、長期間の自然乾燥、ストック
③ 挽き物作品制作 (食器・玩具等)
④ 端材落しは風呂・工房内暖房燃料薪及び炭を刃物鍛冶火造りに使用、桑材は熱量が大きい
⑤ 削り屑は・草木染めの人がもらいにくる他、地元コンニャク農家に渡ります(桑やアオハダは、炎がでないので一気に燃え上がらずコンニャクの釜焚き用に農家が取りにくる)
⑥ 燃焼灰は、食材灰汁抜きに用いられ、桑畑等へ肥料・土壌改良材として山の畑地へ戻る

エコ・メディカル・食材の再評価

 このような自然素材の産出から加工、転用・消費まで地域内のエコ循環再生経路が出来ていました。桑材は、他の木にはない独特の性質があり、昔から生活に利用されてきましたが、最近では、桑の葉の薬理・健康効果成分を利用した食品・菓子・お茶などが開発され市販されています。葉・実・樹皮が医薬・健康食材として再度注目されるようになりました。

*一倉 忠 (群馬県伝統工芸士)沼田桑細工 沼田こけし工芸

 奥利根の山村にある太い桑の木を使用して、長い年月をかけ、茶筒・お椀・湯飲み・茶托・櫃、子供用玩具等を製造。また、自生する「あおはだ」「カシオスミ」材を使った沼田スタイルのこけしを制作、漆塗りなどをてがける。現在、群馬県指定の100歳祝い記念品 桑茶筒制作者、 次世代技能伝承も行いつつ、あと10年は仕事をされます。
370-0016 群馬県沼田市清水町4280 沼田駅前通り TEL/FAX0278-22-5030

桑の木の内科と皮膚科 生木原木製材と治癒効果

 桑生木の樹皮を切るとネバネバ状の白い乳濁液が流れ出てきます。漆樹液のような傷口をふさぐ他、樹皮・内皮組織を傷や菌・昆虫からガードしている分泌成分と思われます。幹の年輪の間にも色素成分が含まれており、薬理作用など解明したい内科的課題です。上5番目の画像は、木口カット部が日光や酸化で変色したもの。工芸材料としては、格調高い木目模様と色変効果を重視します。単に材料としての物性的な見方から、生体として体内反応や性質など、樹の内部の様子・命の営みはまだ未知の部分が沢山あります。
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・山桑幹の煎じ液 がん民間治療実話記事 「胃がん・くるぶし骨癌に効能あり、癌が消えて退院」山桑の根元の樹皮下木部を削り影干しして煎じ茶を服用」桑の木p.68 – 72  S:「一条ふみさんの自分で治す草と野菜の常備薬」 自然食通信社 発行 1999

時代とともに変化する樹と人のかかわり・農業栽培・育樹

 長野県は、国内有数の養蚕地域でした。絹繊維産業ニーズがかわり、現在上田地域や松本市入山辺でも養蚕農家が一軒もありません。桑畑が消え、林檎果樹へ移行しブドウ名産地に移行しましたが、養蚕試験場も消滅、嘗ての片倉絹産業もスーパー・ショッピングモールへと姿を変えていきます。
桑から果樹へ栽培農業も20-30年で木の移り替わる歴史が続きますが、山間部で成り立つ農産の未来を考え、花卉・医薬用植物へと転換の試みが始まりました。時代と共に木も人の暮らしの中でお金になる席を替えていきます。

2009年 農水省養蚕試験場(松本市県)がなくなり、桑畑がグランド・駐車場、住宅地になりました。門前の貴重樹

しだれ桑だけが残され、桑木の総合的研究機関がなくなりました。

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木の総合学研究 2014 – 2019 「桑の木のエコ再生循環」「薬用樹木」「江戸指し物:桑物」「木の内科・皮膚科」

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