「木」の本 翻訳タイトル体裁は中身と合致しない場合があり、原書・初版本も同時購入、「木材の文明・木の文化」は好感度の高いリッチなイメージ
海外出版物を翻訳する場合、使われている言語圏で固有の良いイメージを使いタイトルも変わります。欧米の専門書では、日本樹種と違う場合も多く、翻訳がそのまま使えないケースがあります。聖書の「杉」は西洋杉やレバノンシーダーで日本固有種の「杉」ではなく、「ブナ」「松」「樫」「楢」も別種で正確な用語は定まっていません。
優れた内容の本ですが、日本の環境や樹種とは違う生態圏の知見をそのまま当てはめることに違和感があります。国内樹木研究の本が販売部数の都合で刊行されにくいため、海外本がテキスト手本みたいになってきた実情がありますが、しかし、売りやすくタイトルや体裁を替えるのは原書とズレが起きます。書名を変えると本来のタイトルと違和感がでますから、翻訳本は原著国表示とネーミングにもオリジナルの確認をともないます。良書ですが、外見を比べると別物に見えました。
ネイティブ固有樹種は、似たものを当てはめずに、そのまま原語表記したいと考えます。日本固有種やそのシニア樹性は、古代からの系統をつなぎ、遙かに長い時間経て到達したものです。ドイツ圏樹種は、外見がよく似ていても新來で、約一万数千年前の氷河期後からできたヨーロッパ中央・北部と日本樹種は別格なのに同列に感違いしてしまい、専門知識を当てはめてきたのが明治以降の学制でした。
① 「Trees :Their Natural History 」
by Peter Thomas
2000. Cambridge University Press,NY
p. 286 Paper back, ISBN 978 – 0- 521-459631 228 x 152 x 15mm £21.35
「樹木学」Peter A. Thomas 著 訳:熊崎 実, 須藤 彰司, 浅川 澄彦
2001年7月30日発行 築地書館 ISBN 4 – 8067 – 1224 – 8
218 x 157 x 24mm ハードカバー p.265
¥3,600-
・目次 略
原書は「樹々 Trees :自然史」 和訳では「樹木学」に改題されています。
樹木学は「Dendrology」ですが、著者がタイトルをTrees:Their natural History にしたのは
欧米・アフリカの樹々を主体に 生物学、生態学からの解説にしており、樹の様々な事象がわかりやすく記述。しかし、全ての樹を研究対象にした総樹木学ではないため「樹木学 Dendrology」という壮大なカテゴリーを扱うには無理が在り、多様な項目で生物的事象の説明、生態についての自然誌として記述しています。(教科書として評価され重版中)
日本樹種については、高野槙・蝦夷松・桐について言及がありますが、固有の樹種が多い日本の樹について考察をそのまま当てはめるには事例が偏っています。日本語版では「樹木学」にタイトルを替えた方が教科テキストにもつかえるので、販売しやすいタイトルにしたようです。本題と違う内容は、違和感があり、直ぐに気がつきました。
本書の内容は、理解しやすく他分野の知見がちりばめられ、樹木について生体細胞レベルから樹体形状、都市環境まで(主に欧米・アフリカ圏の)樹木に関する基本的な実際知識を編纂した優れた一冊です。では、日本の樹木について様々な視点・切り口からこのような専門書が可能かどうか。国内樹木についての横断学的な内容の編集・出版が望まれます。
②「Holz: Wie ein Naturstoff Geschichte schreibt」
木材:どのように自然材料を歴史的につづるか(ドイツ語版原書、2007 )
von Radkau Joachim p. 352 Oekom Verlag Gmbh , München Euro 21.45 –
ISBN 978-3-86581-321-3 239 x 148 x 25 mm ハードカバー
・目次 略
「WOOD A HISTORY」 英訳版 2012
by Joachim Radkau
Translateted] byPatrick Camiller, English edition
Polity Press, 2012 Cambridge ,UK
p.399 $20.89 ISBN: 978 – 0 – 7456 – 4688 – 6
236 x 160 x 35mm 「木材 その歴史」
・目次 略
「木材と文明」
日本語版 ヨアヒム・ラートカウ著 山縣光晶訳
p.352 築地書館 2013年12月初版 ¥3,200-
ISBN:978 – 4- 8067 – 1469 – 9 155 x 116 x 26mm
書名は、「ドイツヨーロッパ圏の木材とその歴史」が本来。
・目次 略
右から 原書・英訳版・和訳版
原書は、文明の基礎であった木材がヨーロッパ地域でどのように利用され、産業発展や社会的変遷が続いたかを先史時代から現代までを様々な視点で詳細に描き、木と人間のかかわりから木材の総史としてまとめています。更に、環境・資源から21世紀が木材への再回帰シフトを見通して木の新時代を展望しています。
ドイツからユーロ圏・北米へと評価が高まり、日本国内で翻訳本が刊行されました。優れたヨーロッパ圏木材利用の歴史研究です。装丁は各国でまちまち、和文訳では縦組み、日本の歴史事情にも言及しています。
表紙デザイン及びタイトルは、それぞれ原書とはかなり違うイメージです。「木材と文明」を謳うと、地域や文化の違い、技術や民俗の多様性についても全て言及しなければならず、木と人のかかわりを総合的に考究するには膨大な検証も必要です。分類科目で観ると同じ系統樹種でも生育地・固有種では違いがあり、さらに「文明」を付け加えるのは膨張しています。原本では「文明」がありません。
翻訳版のタイトルや体裁を替えて読者に届く工夫を見るとき、出版社の事情や資質も見えてきます。日本の木の文化は独自の発展を遂げてきましたので、物性・経済・材料的な扱いだけでなく,「木」に対する近親観、親和性や趣好など、芸術や感性の領域までを包括した総合的な研究が必要です。我が国の木材利用の歴史的研究は、政事・経済・産業・資源・環境・文化面での考察が進み、総合学としてまとめられて行くでしょう。
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