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カタスギ・あづき梨 伐採臨死反応・樹芯からのセルフキュア−牡丹 Insight 木の内科 -9

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

単なるマテリアルではなく、内科的アプローチから未知の樹相や意外性に気づきます。特別な性質がある有用樹は、研究対象や商材として注目されますが、目だたない樹木にもユニークな個性があります。実際の切断面イメージは、樹皮や木口からは想像できず、切れば経時変化も見えてくる不思議な未知の樹木を木録。

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カタスギ二本・元口と樹皮 20080215

堅杉 A : 曲がり材 96yrs.  元口径 300 x 2,600L mm     B : 直材 元口径 260 x 2,400 L mm  二本口 0.396 ㎥   ¥18,000-  (20080215 旭川銘木市場土場出品 /道材:オグラ木材落札)

「カタスギ」は、針葉樹の杉ではなく、日本産固有の広葉樹で、明治期までは地方固有名(樹木方言)が多い身近な生活実用材でした。実際の見た木目の特長から、わかり易いネーミングをつけています。(学名は、明治以後の分類学者が付けましたので固有の実用名ではない。)
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A・B 木口 呈色反応牡丹
玉切りカットでは、木口年輪だけでは、特長は分かりません。柿渋・生漆、割れ止め剤を塗布すると樹体内部組織の状態が染み込みパターン変化で顕れ、製材プロセスで中杢に入ると鮮明な木理が出ます。カタスギは堅い材質の杉。別名「あづき梨」は、赤い小さな梨実をつけるところからの命名。炭にすると堅炭になるので別名「カタスミ」、打撃棍棒にすると「牛殺し」。樹皮は、水木(青)シナ(青)・イタヤ楓に似ており、堅く緻密な材質。文献記録がほとんど無く、まだ未知の樹種、芯材は杉(板目)そっくりです。

打撲・損傷ではなく、伐採カットで芯材部赤身からのセルフキュア−反応

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A : 96 yrs. 末口 100mm カット面、元口  300mmカット

年輪とは違う、擬芯ではない牡丹

 今まで擬心部とされてきた木口模様は、伐採後の樹体の損傷セルフキュアー治癒反応とみえる事例が多く、水分が抜けない内は色素が拡散していきます。年輪層を超えて芯部から急速に分泌物色素が拡がり成長、貫通して肥大方向に移動し牡丹模様を生成。この動きは数ヶ月です。また、牡丹は板目繊維方向には現れず、芯材部赤身とは別の挙動として識別できます。樹皮下と芯材赤身周縁には、白色層が出現。経時変化で褪色します。(この二本のカタスギ原木丸太は、市場出品材でしたので、伐採地・伐期がつかめません。丸太木口、樹皮がきれいですから時間は経っていない。)
木口をカットして割れ止め剤を塗布すると、鮮明な牡丹が浮き出ます。色素移動は全周囲から外向、重層パターンの牡丹状に析出拡大。擬芯ではなく、年輪と別の色素紋状層が顕れます。20080402 ABE
製材トリミングの経時変化を木録し、樹木体内反応、経時変化を観ていきます。製材後、自然乾燥が進むと牡丹色は薄くなります。(タンニン成分と思われます。)
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B:末口 260mm 、元口カット面 割れ止め剤塗布
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A: 製材プロセス 挽き厚寸法: 30 – 45 – 60 Tmm (20080402  CLE+ Nikon FM2  ASA 400  安曇木材)板目

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カタスギの用途・特徴

 堅い緻密な色調光沢が良く、道具・器具材、薪炭材に好適とされ、特に北国では樫材に代わる有用材で、太い樹は伐られ尽くしました。最早、大径木は木材市場で見かけず、名前も知らない時代になりました。

 バラ科(ナシ科)と専門書にありますが、実物・実際のデータは見当たりません。樹皮は、木喰い虫が直ぐに寄りつき、玉切りサイズ全形保存が難しい。生きている樹から木材に変わるときの組織は、伐採臨死反応、乾燥課程での段階的な変化が起き、やがて静止状態に。切られても内部組織は数ヶ月から数年のライフタイムがあります。切削後も水分で収縮膨張し動き、長時間経過後、荷重を除くと元に戻ろうするので「木は呼吸している」「木は生きている」という表現をすることがあります。錫などの金属も吸湿したり動きますが、生きているとは言いませんね。

樹木のそっくり杢・類似性

この堅杉の樹皮は、青シナ・水木・イタヤなどに似ており、芯材部赤身は、杉に酷似していることは、生物的意味がありそうです。昆虫の擬態とは少し違うのですが、似ていることは何か意味・働きがあり、相同性Homologyの検索などから解明されると予想します。針葉樹と広葉樹の間で、種の大きな差違を超える現象であれば興味深い。貴重なサンプルになります。
経時変化、組織・材料の物性、利用加工適性、性格などは後日追補予定。文献では、各地にある樹種とされていますが、植生・物性研究や民俗資料が少なく、集収サンプルも限られ詳細は不明。
優れた性質、独自の用途があれば大事にされますので、材質比較、硬度や薬理成分にも注目していきます。真っ直ぐに伸びるソフトな材質の日本固有種「杉」は、最近の遺伝子研究で檜の仲間という分類になりました。堅い材質の杉に似たこの広葉樹は、数千万年の時間を経てきれいな姿を魅せます。
 *「あづきなし」記述初出 「材堅緻ニシテ木理色澤ヲ利用ス 洋家具、陳列棚  材ノ堅緻ナルヲ利用ス 靴型」P.1231
 S:「木材ノ工藝的利用 」明治45年  農商務省山林局編 大日本山林會発行
 ⓒ 2015 , Kurayuki, ABE
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木の総合学研究 2015   「堅杉 製材・木取りまで」「堅杉 – 木の内科」「木歴・木録」「Hard Wood – Insight」

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