「木」のコレクション「木」のミュージアム木と人間の関わり自然の造形

「木」のコレクション、ウッドコレクターに関する論考と樹種リスト

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

「木を集める」「木を使う」「木に寄り添う」ことは、燃料・材料・生存環境資源として依存してきた人類の本性

木は自然が造り出したアートマテリアルですが「木のコレクション」は博物舘でもほとんど無く、木のマニア・収集人に出会わないのは不思議。樹木が身近に在ると豊で心地よく安心できますが、特別に意識しない空気や水と同じ感覚でいるのです。樹木と人間の親密で根源的な関わりを考究すると最も本質的な意味あいを持っていることが分かります。木材色は、各民族人肌に近いのです。

樹木を集めるプロフェッショナル

研究者、プラントハンター、植木・造園職や材木商・銘木屋は、樹木を集めますが、木のコレクターではなく、ビジネスワークです。世界の珍しい木材を収集するには、経済力と広い場所、時間が必要ですから一般の人向きではない。木をあつめてコレクションを自慢出来ないと続かないし、植えたり保管するにも人手と経費がかかります。
世の中、樹木が好きな人を特別視する事も無く、また、木を嫌う人もいないので「木」は普段は特別に意識されません。静かに立って動かず、物を言わない存在。際だった特長もなく、ありふれた樹木観では個人の収集趣味として成立しにくいものではないかと思います。商材・材料的な見方が定着していますから「木の専門家」というと材木屋に近いイメージが強く、職業的な拡がりは限られている世界です。
木材の美的価値を趣味で観賞し、木を削るのが好きで道楽として収集活動をするということも聞きません。木を集める行為自体がお金を呼び、商品に化け営利に結びつきやすいという性質が有り、太古の昔から有用資源・経済価値が高いものでした。
人類は進化の過程で、森の中に樹上生活を長く続け、樹木に依存して来ました。あまりにも身近で特別に意識しないものを趣味の対象にできるかどうか、興味関心を引く対象になれば収集意欲が出てきます。木をコレクションすることが面白く、有益で快適な楽しみ事になれば、自然素材が注目され未来が明るくなるのですが、現在では趣味で木を楽しみ愛するのが難しい制約が多くあります。木工関係・建築家やデザイナーが仕事がらみで集めることは多いのですが。

趣味のコレクションが出来る、コレクターが存在するには

A. 魅力を感じ、集める面白さや楽しみがある

B.小さいもの、コンパクトで保管場所をとらない

C.稀少性、珍しい価値のあるもの

D.同好の人がいて交流が生まれる
E.由来や記念、ストリー性があるもの
F.収集対象が広く、深い知識が必要
G.専門分野・研究者、権威筋がいる
H.初歩からマニアまでレベルがある
I.交換・売り買いができる
J.購入費用が個人の財布範囲
K.拡張・発展・継続性がある
L.所持・移動が容易い
M.危害がなく、法的規制物ではない
などの要件があります。
樹木マニア・コレクターが存在しないのは
次のような事由があるのではないかと考えます。
① 流行トレンド、格好いいとかカワイイイメージではない
② サイズが大きく広い収蔵保管スペースが必要
③ 木目は小さくカットすると価値がなくなる
④ 生物素材・重量物で維持管理が難しい
⑤ 品質・仕様・外観が同一でない
⑥ アマチュアが興味だけで入り込めない専門的知識が必要
⑦ 個体差が大きく定量・価値評価が決めにくい
⑧ 集まると用途・材料価値があがり、資産が目立つ
⑨ 木材入手ルート・業界が複雑、旧来産業オールドビジネス
⑩ 取引商品単位・ボリュームが大きく、小口販売が出来ない
⑪ カット・削り仕上げ加工をするには工房機械設備が必要
⑫ 経年劣化する
など、コレクターがほとんどいない要因ではないかと考えます。
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木目・材質感・香り・重量を知るにはこのくらいのサイズが望ましい。「実感ボリューム」です。上から白樫(餅)、青樫(牡丹)、苦木(節)・木表(50 x 100-200 x 1,500L  mm )
木材コレクション・樹種について
世界中の有用木材が乱伐され、次第に枯渇してきましたので研究見本としても集めることが難しくなります。
日本産樹種は、巨木・大径木がなくなり、素材としてマーケットにでる樹種も限られて少なくなりました。コレクションするには、いろいろな種類が揃い、観賞する魅力が必要なのです。木が好きで玩具や工芸品を集める人はいるのですが、木材を収集するのは専門プロになるしかないようにも見えます。また、日本の木材色は大人しい中間色・中庸が多く、アフリカ・南米・アジア地域産に比べると、際だって目立つ個性的な材種が少ないため、収集対象としてバラエティが狭いのです。

国産流通材種コレクション70種「国産材ウッドプロダクトマップ」1985

「木と人間のかかわり展1985」市場に出ている全国各県産材サンプルピースを集めマップに仕立て展示しました。 針葉樹32種、広葉樹41種 計70樹種をリストアップ。企画立案・制作:阿部藏之
各地市場流通材種は20種程度が多く、各県別最多収集は42種。(日本デザイン学会家具木工部会で1985年企画プロデュース。協賛協力:林野庁販売推進室、各県林務・林政部、工業試験場)

 ウッドマップ1985-C
ウッドマップ1985-A ウッドマップB修正版
アイヌ民族の樹木 47種
アイヌ民族の樹木 リスト-b 20140915
工芸実用材 155 種
「木材ノ工芸藝的利用」 明治45年 農商務省山林局 編纂
木材の工芸的利用・樹種リスト1912
「日本の樹木」国内樹種数は、1,300余りが紹介されていますが、花木・材用途、草本・木本分類などで樹種リストが変わります。さらに、青・白・赤、雌雄別、若木・老木・大径木、材質・木目、カット部位・生育地域別でも 識別しますので木材標本定数は決まりません。

樹木コレクション、収蔵施設例

Qガーデン ロンドンの王立植物園 世界遺産

プラントハンターが集めた世界の植物と木材関連資料を収集保存している世界最大の植物園

最大の北米木材標本 326種コレクション Vol.14 , 1888 -1913

「The Woodbook」by Romeyn B. Hough  ,改訂プリント版 2002, Taschen

百樹のコレクターは、明治日本にいた

樹木を集め植えて楽しむのが流行していた時代がありました。木のコレクションというより作庭を趣味にしたのですが造園の要素として樹々を揃え植栽を楽しむというものです。また、迎賓・接客目的で庭園樹林が造られ、敷地内に設計して植えるので自ずと選別植栽されます。専門職の管理も必要で、単なるコレクター的趣味の好事家では成立しないカテゴリーです。

「柳楢悦」やなぎならよし「百樹庵」

幕末の和算家で柳宗悦の父。オランダに留学、数学(洋算)を学び帰国後、海軍に入り、日本近海水路測量、日本海溝を発見。オランダから多量の球根や種類の違う樹を持ち帰り、屋敷に植えて「百樹庵」と名付け楽しんだと言われる。
実際に百樹種であれば、欧州で集め揃えたられたどうか。オランダ国内にプラントハンターが既にいたと考えれば世界各地で集めた樹種はかなりの樹種になり、あながち無理な数量ではないと思います。ペリー、シーボルトもプラントハンティングしていたので当時の資源植物探索は盛んだった訳ですから。実際は100樹種ではなく、樹種を沢山植えていたという事でしょう。木録が保存されていれば是非拝見したいと思います。

巨木・銘木コレクション 銘木標本舘

昭和初期、貴重な日本の巨木銘木を収集して木場に「銘木標本舘」(現在は「銘木舘」)を開設した材木商長谷川萬治がいました。自然歴史遺産として収蔵保存施設で公開され見学できます。日本国内樹種。
奇・珍木 コレクション
変木・珍木を集めた「雪国奇木舘」が新潟にありましたが、研究・学習目的ではなく、見世物として料金を稼ぐ民間観光営利施設です。自然の生命感溢れる異形の造形物が目を引き、独特の趣味世界があります。
「樹木標本」の研究サンプル資料収蔵
標本学の本では、「樹木は大きすぎるのでカットサンプルで収蔵する」と書いてあります。葉・花・実はサイズも小さく引き出しに収まりますが、枝・根・幹・根は資料庫には入らず、樹木の全体保存は樹種・個体差の多様性を全て集めるのが無理なようです。
この他、有用種シードバンクや木材標準見本・DNAサンプルは、公的研究機関で研究用に収集・保存されています。

自然材料・木材の魅力、引きこまれる魔性  制作家・山師・木材商人のビジネスリスク

工人も良材が仕事を勢いづけ、満足できる仕上がりにむすびつくので、経済的にも良い結果をもたらします。仕事の出来映えにかかわる材料に先行取得して集材するのですが、次第に材料にのめり込み、引き寄せられ現実を見失うことが起きます。木目は自然の芸術作品・造形物で、とりわけ優良材は商材価値に加えて、素材の可能性や魅力が心をかき乱し、キ印になると言われてきました。人は木の世界に入り込むとおかしくなり易いと感じます。木は暴れ狂う、反る割れる。黴・虫喰い、老け劣化がつきまとうのです。
木材商人は、木にとりつかれることがあるようです。高利益を上げ築いた資産を失うリスクがつきまとう取引相場業務ですから、欲目で取引していると危ない事に遭遇し、身の破滅を呼び込むことになりやすい。昔から材木商はリスクが大きく、ビジネスが長くは続かないという歴史的事実があります。
樹種コレクションには、産出地、伐期などが記録が必要ですが、木材市場では買手に教示しない商習慣で現物熟覧方式。ほとんど開示されません。自然生物素材・高価な商材で流通経路も複雑です。追跡現地確認することが困難で、曖昧な情報がつきまとい出所がほとんどわからない現状です。
燃料から道具・家屋に至るまで、木材を集めることが人類の生活・経済活動の歴史そのものでした。環境維持・再生循環資源、生命維持装置として森林・木材の総合学から再考を進めます。
*この稿続きます。
20141105  アイヌ民族の木 修正
ⓒ 2014 Kurayuki, ABE

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木の総合学2014 – 2019 「樹木コレクション」「木材収蔵施設」「有用・実用樹種リスト」

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