MT マテリアルトリートメント「木歴・木録」木の内科

白樺内科 白と牡丹(赤) の識別 Insight バイオメディカル 木の内科-6

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

まだ専門書には出ていない樹相をケーススタディ。白樺には、木部がプレーン(白)と芯材赤身部に軸周りボタン模様がはっきり出るものがあります。

白樺の内部変化と樹種の違い 玉切りカット面からの観察

 専門書には記載されていませんが、白樺にも生体組織・性質の異なる個体があり、芯から白いプレーンな木部と芯材部が赤褐色の牡丹状色素帯がでるものが存在します。20本に一本程度の混じりでした。白樺も「白」「赤・牡丹」があり識別できます。樹幹に切傷・打撲を受けると、命を守るため内部組織が自ら感知して治癒する動きを起こします。

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白4本と赤(ボタン)AQ20110204 – 20110221
ボタン芯材部の自己治癒現象・内部変化

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「芯材(赤身)は、死んだ組織で生き物として機能をすべて停止している」と学説で教えてきましたが、実際は違うことが多く単純ではない。伐採されたり、樹幹にダメージを受けると、切断面では、芯材部から水を噴き上げたり、年輪を透過して色素が素速く移動。芯材部から抗菌・治癒防御物質が代謝され、切り口に向かう鮮明な動きを観察できます。

木の命の不思議 自己治療バイオメディカル能力

 樹は傷ついた時、生体反応として傷口に向かって芯材部の有色物質を浸送(代謝)しキュアーする活発な動きをはじめます。伐採時からしばらくの間、このセルフキュアー現象は芯材部がはっきりしている樹種で見ることが出来ます。芯材部は水分移動保持・色素移動など動いていますから死んだ部位ではないのです。これが止まると徐々に死斑が放射状に拡がり枯れる経時変化が起きます。そのまま放置すると、黴・菌がとりつき内部へ入って腐食し組織が壊れていきます。樹木は、切られてからもしばらくの間、音も無く、内部でダイナミックな生命活動を続け、芯材部は成長を止めていても樹体を維持するための機能を保持しているとみえます。傷ふさぎ防御の色素移動(代謝)は、真樺・ブナ(赤)・柏・ケンポ梨・みやまさくら・イヌサクラ・栃(白)・朴・辛夷・青樫・小柿などにありますが、各樹種毎に内科的精査が必要です。秋、紅葉した葉に含まれるタンニンを枯れ葉が枝から離れる直前に吸収する樹の生理作用もさらに不思議な現象です。

白樺「白」と「牡丹・赤」の特長と性質
①(白)は白太辺材部と芯材部が明確ではなくプレーン、芯部の硬軟あり
② 材色・黴の入り方が違う。(赤)の 芯材部赤身には黴が入らない(抗菌性)
③(赤)内側樹皮層が(白)より若干厚く、成長年輪幅がひろい
④(赤)の樹皮は油分が多く、表皮色が締まった感じのグレートーン(生育地環境差?)
⑤(赤)は白より割裂性が強く万力・楔割りできる
⑥ 材の比重は、あまり差がない
⑦(赤)混じりは集材現場確認で白20本に一本ほど
内部と樹皮の様子・雰囲気がわかりましたので、自然立木の枝葉花実の識別ができそうです。
冬場の原木材収集ベストタイミング
チップ材ハエ(丸太の山:木材市場用語)の中から稀少な牡丹を見つけ、未研究サンプル材として二度目の収集、白樺も単一種ではないことが明確になりました。
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 2 月、木材チップ工場には、近隣から冬期伐採木が集まっています。変木や工芸材、木材市場に出せない稀少樹種も丸太の山に紛れ込んでいることがありますので要チェック。この時期の丸太は、有雪期に伐採され、春前の水分をまだ上げない厳冬期で素材品質がよく、目利きならば見つけものが混入選抜できることが有ります。厳冬期は、黴や木喰い虫のダメージが少なく、丸太買いのベストシーズン。白樺ボタン(大岡村産出)が混じり、サンプル資料材に入手しました。

チップ工場の現場での集材メリットは、
・厳冬期伐採木で水を上げていない良い状態で入手可
・産出地・伐期、搬入元がはっきりしている
・木材市場商材とは違いチップ材用でコストが低い
・識別・選び抜きできれば一般に入手しにくい材が得られる
・調達コストを低減できるが、全て自力選別判断・搬送まで体力と時間が必要
等が有ります。(木材市場では、商材として出品者や伐期・産出地が曖昧にされ、木材トレーサビリティは不可です。)
実感サイズ サンプル材の木割・木取り
P1010897-1 P1010420-1 P1010404-1 P1010900-1 P1010415-2 P1010439-1 P1010459-1AQ20110221

玉切り材の自然乾燥と黴入り芯材部経時変化比較 2011→2014

白 (芯材部がはっきり分かれない)

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(樹齢:63ー49yrs. 末口径:285 – 250mm)

赤(ボタン)辺材白太は芯材部とはっきり分かれる

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(樹齢:51yrs. 末口径:240-230mm)
腐りにくく、芯材部色素組成が判ると黴止め効果天然物質が判明します。
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白と赤の3年変化 AQ20110221 – 20141002

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枕木材木口 黴入り比較 AQ930812

木口黴止め生漆塗布 MTマテリアルトリートメント効果

生漆刷り込み(ガムテレピン油30%希釈)をした両木口カット面には黴が入りませんでしたが、樹皮付き両耳にはしっかり木喰い虫が穴あけ中。漆の殺菌力・抗菌持続性能はすごい。

P1090332-1P1090342^1
20110221 -20141002 白 64yrs. 285 x 960 x 60 mm
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86yrs. – 51yrs.  175 – 210W x 180 x 900mm

 日本では、優良木が多く、有史以来、使いこなす技術・文化がなかったので白樺を雑木扱いで粗末な扱いをしてきました。白樺は、伐採後の二次林で成長が早く、その林相・景観も美しいので北欧の様に多目的で使われれば評価が高くなる樹種です。ブナも同じように利用価値の低い歴史がありました。自然有用エコ素材としてあらためて注目したい白樺さんです。

樹木の内部メカニズムは、伐らないと判りません。サンプル原木はそれぞれ個性があり全て同じではなく、これから先も製材現場で多数の原木をみる幸運な継続作業・樹相把握が必要です。

*サンプル材カット作業協力:柏木工房 柏木 圭 20110204 – 20110221
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白樺樹皮が剥離しないMT マテリアルトリートメント 工芸材利用

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松本地方の民藝品白樺細工に使われる樹皮付き小径木4寸ー5寸の丸太材は、山で伐採後20日間の葉枯して玉切り。
内皮の水分が抜けて樹皮は剥離しないが、自然乾燥による収縮割れはおきる。
(大和合地区羽山木彫工房・羽山良樹 20160429 )

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木の総合学 2014 – 2019  「白樺の内科 – 内部組織の変化」「白樺の白、赤・ボタン」「Inner Study of White Biich 」「有用樹木録」

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