「木」の道具・工具木工

鉋台打ち名工の下端定規 ハンドツールコネクション-8

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

道具は自作がベスト。みだりに既製品を仕事場に増やさない。自然素材が相手ゆえ、工業製品の無機質なものを抑えて、自前でまかないたい。財布にも良く、仕事場を雑・騒然としないために。

 自分の手の延長であり、仕事に応じて制作するのが基本です。明治中期から、忙しく自作できなくなると外註・道具専門工が現れ、いろいろな改良・進化が起きます。仕事が速いと稼ぎになり、きれいな仕上がり、能率を上げるものに飛びつきます。木工職は、道具好きが多い。
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 鉋職は、鑿・鉋仕事です。墨付けの曲尺と台鉋の調整用の下端定規を使います。下端定規は、二枚に割って合わせたテーパー端部で、使う時に平台鉋の下端に当てて、先端エッジとの隙間を診る。定規面を互いに合わせると直線の精度をを検知できる仕組み。真っ直ぐな先端部基準面のエッジを当てながら、台裏の歪み凹凸をみて台直し鉋(立刃)で削り、平面を調整するための定規です。
家具・指物職をはじめ、鉋使いの必需道具です。特に鉋専門職は使用頻度が高く、部屋仕事(居職)だから堅木で長く使えるものを制作します。
大工(出職)は、現場で使う檜材の(柾目・追柾)で自作。針葉樹材は、材質が柔いので、ぶつけると凹む。赤樫・黒檀は、少し当たっても凹まない。ガードのため、定規面先端にアテ木(袴)を挟みます。

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鉋台打ち名工・青山駿一作 下端定規(出雲型)

 定規には、素性のよい堅木優良材を木取り、狂いが出ないように 4 – 5年寝かせて。指物、精密木工では、桜の良材を使った。赤樫・黒檀など濃色堅木は、鉋台にあてると見やすく、使い込むと手油でいい艶がでるので素木地のまま。
江戸時代から下端定規は、本来、自作でしたが、戦後の復興期、経済高度成長時代に道具需要が高まり、大工道具店頭に既製品が出回るようになりました。当時、出雲・播州の算盤メーカーが需要減で、他産業の道具製造をはじめ商品にしたもの。算盤材の赤樫、黒檀、竹材がそのまま転用できる一時期の既製品でした。
1990 年、出雲の算盤メーカー製下端定規を青山鉋店で自作したものが5本あり、購入したものを掲載します。未使用。木地のままですので材色はやや褪色。赤樫材は、1975年 宮崎県小林市の材木店土場にて産地買い付け、製材したもの。
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縞黒檀の下端定規を使う 1990年12月 名古屋市金山の仕事場
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2014年末、台打ち納め近影  名古屋市露橋 撮影:工房ブレス 須藤崇文
□下端定規 仕様
・平台鉋 (寸八・二寸)用、赤樫 追柾 27 x 52.5 x 365 mm    350 – 440g    嵌合ダボ:竹・ 径 7mm   ¥ 6,000 –
・長台鉋用 、赤樫 追柾 27 x 52.5 x 422 mm   436 g ¥ 6,000 – / Lignum vitae  追柾 23 x 50.5 x 23 mm   510g   嵌合ダボ:竹・径 6mm   ¥ 7,500 –
 工業生産された道具・治具・マシンは便利ですが、デザインされたものは、至って個性が強く目だちます。仕事場にあると、自分のセンスや個性とちぐはぐ、ハーモニーは崩れ、雰囲気が乱れます。James Krenov は「自分でつくれない物以外は、買わないこと」と戒めていました。
ワークショップが道具や資材でバラバラ。作品イメージを干渉し、デザイン色賑やかに騒がしく混然、納まり付かない雰囲気になりがちですね。
 現在では忙しいので自分で作らず、買ってすませるようになりました。最近のステンレス製は、金属製で丈夫、シャープな薄身の刃先形で樫台には少し使いにくい。狂いにくいとされるが、直線精度を厳密に確認するには二枚必要です。
鉋の下端を見るだけでなく、二枚を離して板材の端部に置き、捩れ反り変形度を診る使い方があります。

「鉋」(ひきかんな) 「和漢三才圖會 巻第二十四 百工具」 寺島良安著 江戸中期(正徳〜亨保年間)

「槍カンナ」から進化した台鉋が図説辞書版木本に記載される時には、すでに一般に使われ、定形化されていますから、その時代には精度・使いこなす関連技術も成立して下端定規もあったと考えます。「鉋」は樫材、長さ六−七寸とありますので小振り、現在の寸五ほどのサイズ。
 道具が揃っているとなんだか仕事が出来そうな気がするもの。気分も替わるし、腕も上がるような感じがして。道具の進歩には、ころりと財布をだします。道具に稼ぎをつぎ込むのは宿命ですが、手軽に買い揃えるのは危ない。やがて、資材・道具は、他所で儲けがでているものを使って行くと、利益が殺ぎ落とされて実収は多くないことに唖然とします。
一流のプロは、既製を使いこなすのでは足りず、独自のノウハウ・センスを注ぎ込んだ道具が仕事を呼び寄せると言います。特注して自分にふさわしい道具でかためることができた時代は過ぎ、出来合いに囲まれています。世界共通ですが、伝世・名工作品をもつと、子供みたいに嬉しい。道具が励まし引っ張る時間があります。
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木の総合学研究 2015 – 2019  「木工道具」「木の定規」

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