「木」と環境「木」の本

樹木環境ネットワークシステムから算出する経済価値 「一本の樹の価値は、一本の樹それ以上である」 Ein Baum ist mehr als ein Baum / A Tree is More than a Tree ドイツ「木」のベストブック-12

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

1980年代、深刻化する環境問題から自然保護・エコムーブメント・産業政策の転換へ大きな影響を与えたバイオネットワークシステムの研究者による窓空き絵本。身近な環境エコロジーの仕組みを経済的価値で算出、細部から全体までリンクを理解できるように編集し、難しい専門知識を分かりやすく解説。イラスト・絵本化手法が論文スタイルを変え、カテゴリーを超えて木の総合的研究への道筋が見える重要な方向を感じた一冊。

Ein Baum ist mehr als ein Baum  (A Tree is More than a Tree)

「一本の樹は、一本の樹それ以上である」

Ein Fensterbuch   von Frederic Vester著
Illustration:Peter Schiimmel 画
Kösel-Verlag, München   1985    p.42 プラスチックリング綴じ  230 x 300 x 8 mmT
ISBN 3-466-1105-5  24,80DM
23の窓空き絵本

内容・図版                         p.

Bild 1:Der Materialwert  材料価値     3

Bild 2:Direkte Leistungen  直接生産高    5

Bild 3:Beginnende Vernetzung  ネットワークの始まり    7

Bild 4:Erste Rückkoppelungen  最初の還帰連結    9

Bild 5:Weitere Rückkoppelungen  広汎な還帰連結   11

Bild 6:Die Gesamtvernetzung eines Baumes   一本の樹の全体ネットワーク     13

Bild 7:Zwischenspiel  中間の活動   15

Bild 8:Blick über den Zaun  町を越えてちらっと観る  17

Bild 9:Indirekte Wirkungen  間接的作用     19

Bild 10:Langfristige Umweltleistungen  長期間の環境影響   21

Bild 11:Rückkoppelungen mit der Wirtschaft  農林経営の背中合わせ環帰連結    23

Bild 12:Stabilisierung des Lebensraumes  生物圏の安定     25

Bild 13:Die Gesamtvernetzung des Waldes  森林全体の絡み合い    27

Der Wert eines Baumes   一本の樹木の価値 (総決算:一本樹と森の中の樹 / 年間比較)    28

Bild 14:Schlußbilanz  若枝の決算     29

Anhang  zum Wert eines Baumes  一本の樹の価値の始めに(23窓ごとの解説)     32

Quellenangaben und Literaturhinweise  出典と参照文献(本・専門項目と引用)     41

 

本文・解説の一部紹介
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一本の樹が生み出す多様な価値を算出
O2製造, CO2吸収, 有機物質生成、保水、水揚げと繰り越し高計算では、315.63 DM/年間単独立樹と森林の中の樹では生産機能・価値に大きな差異が生じてきます。
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baum 価値比較-b
単独樹と森の中の樹の役務・経済価値・について(結論)
決算金額は、1675,64DM  対  5297,25 DM   約3.16倍の違いがあり、単独樹と比較して森の中のほうが生物循環が価値が高い計算結果。樹は一本でも多くの価値があり。森全体となると生物圏全体での物質循環・環境交互作用が生存システムに多大な価値と相互依存メリットを生み出している。
当時、ヨーロッパ中部圏では、深刻な酸性雨による環境汚染による森林枯れ死が大きな社会問題化していました。とりわけ価値が大きい森林の気象調節価値比率は、トータル樹木価値の45%。森林が破壊されると経済のみならず生存基盤そのものが荒廃することを意味しています。森林全体で生命圏が安定維持されるエコシステムになっていることを理解することが環境破壊の拡大をくい止めることにつながると論説。「一本の木では林にならない」雲南トン族の箴言を思い出しました。
本との縁を辿る

 1985年5月、夜のフランクフルト新市街の書店ウィンドウで、新刊窓空き絵本が買ってよと呼ぶ。古本屋の前では、本に呼ばれることは度々ありましたが。
 早朝、空港チェックインぎりぎりでしたので、開店前に店主に空けていただき、慌ただしく購入。環境物質ネットワークの価値コストを系統的に解説、樹木をめぐる環境資源・経済価値から評価した内容の初見本でした。エコロジー専門知識を視覚的にプロセスごとに分かりやすく説明し、窓あきでイラストを見ながら生物活動の相互関連や循環プロセスを細かく読み進む、全く新しいスタイルの本でした。
実際の価値を金額で算出し具体的に環境価値を金額で説得力のある論証。実利的な見方は、日本の樹木や環境に対する精神的・民俗宗教など面価値観と違いがありますが、価値項目はドイツ国の植生・地勢学的背景も反映しています。キリスト教義では、「樹木は、神が人間のために創造した」ので利益あるものという考え方です。
森の民族ゲルマンの歴史文化に根ざす研究は、見事に樹木の有り難み・御陰を説明し尽くしています。日本では、樹種が多く林相が複雑な上に、山林地形が急峻ですので、このような定量化積算は関連分野の研究成果が揃うまで膨大な作業が必要です。明治期のように、手本にしたり手法を真似するのはいけません。
 当時は、PC・インターネットもなく、著者来歴などのデータが詳しく検索できませんので、秋口10月にミュンヘンまで足を運び、出版社・編集部を高級住宅地にある邸宅に尋ねました。この種の窓空き本シリーズを出版できるハイレベルな企業は余力があるか、特別な団体機構でしたから、ドイツ出版事情も知りたいのでコンタクト。本社訪問して教材用に直販交渉し、卸デスカント価格で購入。(当時は、輸入図書の値段は代理店経由で 3倍程度、テキスト配布にはとても使えない高値です。)
直接訪問は、いろいろな関連本や付随知識・役立つアドバイス・紹介先もいただけるだけでなく、行きつけレストランも教示してもらえます。
絵本のような編集・体裁は、児童向けではなく、環境問題や木のバイオ環境ネットワークを絵解きするユニークな本でしたので、翌年 の木の大学講座参考資料に配布しました。

Frederic Vester(1925 -2003)

ドイツのバイオケミスト。環境・エコロジー研究分野のエキスパート
バイオネットットワークシステムの研究は、環境運動や緑の党に影響を与えた。広範囲の優れた研究・著作多数。
*Frederic Vester の窓空き絵本シリーズKösel版は、初刊「Das Ei des Kolumbus 原子力はコロンブスの卵?」1979 16.80DM、「 Der Wert eines Vogels 一羽の鳥」1983  19.80DM、「Ein Baum ist mehr als ein Baum 」1985 、Januskopf Landwirtschaft農業の暗黒未来」2002 を刊行。
ⓒ 2015 , Kurayuki, ABE
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木の総合学研究 2015 – 2019   「樹木と環境ネットワークの経済的価値」「木」の環境・エコシステム・生態経済学

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