継手構造をそのまま見せた斬新なデザインアイデアは、当初は新規性インパクトがあり。形だけを真似た量産機械加工では、材質の動き・品質リスクを読めず、北欧家具のデザイン品質を揺るがしました。伝統技法は、使い方だけでなく、材質の適否、傳承されてきた実際のノウハウを無視すると致命的なミスに。
丸盆直径:515mm / 周縁フレーム : 40 x 32 x 地板ブナ10mm幅剥ぎ 5 Tmm (柾目・板目乱剥ぎ 北欧ブナ材)フラットクリアー塗装仕上げ 2kg 継手:送り車知止め 8ヶ所
形だけを真似ても 技法・材質の違いを無視すると木は暴れ狂い、手に負えない
周縁材が曲げ木ではなく、ブナ材集成ジョイント構造にして短尺材を活用、明時代の家具継手をコピーして構造的な意匠を表に見せた作品です。反り変形を抑えるため、太めの周縁材の中央に小割集成したブナの底板を嵌め、周縁は8ピースに継手加工・ラウンド面取りカットしたシンプルな円形大盆。当時、Hans Wegner デザインのアームチェアー CH-51の背凭れ (オーク・アッシュ平割り板のアーム集成曲げ木+ソリッド追柾削り出し)に使われたフィンガー角核接着構造が継ぎ手を魅せる意匠で注目されていたので、その影響をうけて接合構造を見せるデザインアイデアに。
CH-51は、ソリッド材削り出しや曲げ木に変わるR面取りに使われて、高いデザイン性と集成構造の繊細なデティールが注目されていましたので、この継手構造にデザイナーの目がひかれたようです。日本の継手技法との違いを比較するため、家具用ジョイントサンプルに購入。AQ 77052
購入後、2年程は狂いませんでしたが、湿気の多い日本では膨張して底板がむくり反り上がる。やがて縁材継手部の接着層が剥離、さらに込み栓(角車知)がつぶれ変形。周縁を固められて材の伸縮ができず割裂。
欧州ブナ材は、素性がよく、放射細胞が微細で微質で暴れないとされてていましたが、日本産ブナと同様に多湿な塲所では見た目にもわかるほど吸湿すると動くので、木の動きを止めれば破断に至ります。接着層には樹脂系接着材に木粉を混ぜて練り、締め切れない空隙を充填、周縁パーツ組立て時から手こずっていた様子がみえます。相互に嵌め込まれる中子枘先を密着させるのが難しいため、込栓(車知)を分割して打込み。欧州ブナの材質は緻密で綺麗なテクスチャー、放射細胞が小さくスリムです。
此の丸盆では、底板を10mm小割り剥ぎにして変形を抑制したものの、板目・柾目が混じり、反り捩れを起こしています。継手と主材の動きを逃げを封じこめば、接合部と込栓に応力がかかり、剥離・圧縮変形を起こしています。
柾材でも動きを抑え切れず、枘の逃げをとる構造にして完全なクリア塗膜塗装仕上げにすれば変形も少ない。「ブナ」は乾燥地帯には生息できず、寒冷・水気で成長しています。なお、ブナ材には赤と白、及び割裂性のよい「柾」がありますが、違いは微少です。
8 パーツ接合部のクローズアップ
No.1
No.2
No.3
No.4
No.5 No.6
No.7 No.8
打ち込栓は、ローズウッド・Etimoè 等。よくよく観ると、車知(栓)がズレ・変形したり陥没(1−5−6−8)は、分割栓(Key)を使用し割寸は左右ばらばら。(2−3−4−7)これは、組立時に中子枘先が十分に送り嵌められずに、やむなく割栓にしています。胴付も隙間ができてコクソ埋め。量産化しても、円形に閉じて継手は無垢材挙動の逃げがなく、接着部分の剥離、車知(込栓)にダメージが現れています。円形で固めると木の動きで生じるズレが吸収できる逃げがありません。製作現場が手に負えない押っつけ仕事。珍しい痕跡です。
國政流では組手技法が殆どですが、継手の数種あり、堅木の継手の「送りシャチ止め」を角にすると僅かだが膨張収縮で変形をおこすので契りにして仕上精度・結合強度をアップしていました。中子(枘)の嵌合をピッタリ締めるには、合わせ契りを打ち、蟻型の下穴を僅かにズラシテ堀り込みます。家具木工用では、分解し外す事は無く、化粧仕上げや見掛かり部分の納まりは、微妙な接合面の動きをみて車知栓(Key)「契り」をいれることになります。
部材加工が仕上がっても逃げや嵌合度を調整する必要があり、成形刃物で量産するとそのまま組める構造ではないのです。また、建築部材の場合は、檜・杉角は針葉樹軟材ですので、広葉樹・堅木と違って車知(込栓)がつぶされることはない。
國政流 江戸指物・継手「送り車知止め」
中子枘を密着させ、組み合わせ接着した車知(込栓)を契形で入れる。契穴は、僅かにズラして堀る。AQ 970702
CH-51 背凭れ接合部 Design: Hans Wegner /PPMøbeler
DEN PARMANENTE association について
デンマーククラフト・インダストリアルアート作品展示から北欧モダーンデザインプロモーションの魁け 1961-1981
「デンパーマネンテ」は、1961年、デンマークのインダストリアルアート分野のクラフトマンやデザイナー、及び関連企業が参加(1970年280名)してハンディクラフト・インダストリアルデザインアートの作品展示・産業振興を目的にした協会がスタート。ファニチャー・テキスタイル・セラミック・宝飾・カトラリー・照明・硝子・絵画・彫刻分野が集合したプロモーション組織です。職人の手仕事・小規模の産業を主要産業に成長させ、経済と文化発展を目指した活動が成果を結び、北欧モダーンの礎となりました。
1970年~ 1979年ごろのデンマーク家具には、高級材のブラジリアンローズウッドやチーク材がふんだんに使われ、その端材はテーブルウエアー・トレーなどのモダンデザイン小物類に。家具産業が世界のデザイントレンドをつくりだすとともに、コペンハーゲンの目抜き通りにモダンなビルの1F-2Fに開設されたスペースは、ツーリスト・インテリア関係のビジネスゲストが立ち寄るクラフト・デザインスポットとして喧伝されました。デザインが新しいビジネスを誘発、産業振興につながる牽引力となり、造形・デザイン界に大きな影響を与え続け、現在でもタイムレスデザインとして評価されている名作が数多く生み出された時期です。
モダンファニチャーブームは、第二次世界戦争後の戦利チーク材や南洋・南米、アフリカ産銘木が使い果たされ、やがて南米・アフリカ・東南アジアからの良質材が減り、材料が高騰。地元北欧のオーク・アッシュ・ブナやパイン材への転換がはじめると、ニューデザインが注目され、スカンディナビアファニチャーフェアやコペンハーゲン中心部にあったデザインプロダクトセンターDEN PERMANENTE、Illumus百貨店等で展示販売されていました。今回のD社ブナ材丸盆作品は、デンパーマネンテとIllums Bolighusで展示販売していたもの。
第二次世界戦争後の戦勝国向け経済産業復興でモダンファニチャーデザイン作品を集めて展示紹介、販売・輸出支援をするデザイン志向の会社共同組織が設立され、Danish applied Art and Handicrafts, Scandinavian Modern Design の先駆的なPRプロモーション活動の重要な拠点となりました。家具・インテリア製品・建材メーカーが次第に大きくなると、トレーディングセンターなどの展示貿易施設ができ、流通マーケットの変容で参加メンバー社が減少、経営破綻して終焉。クラフトからインダストリアルアート・デザインまでデンマークをはじめ北欧各国のデザイン発展に多大な貢献を果たしたのです。
北欧モダーンデザインは、このDEN PARMANENTEの存在が大きな家具・インテリア産業へと発展する契機となりましたが、刊行物・資料が少ないので現地で販売した1975 – 1980年のカタログ・刊行冊子を一部掲載します。最下段の小冊子では、1972年に亡くなったBørge Mogensen作品が7ページに渡りレイアウト。追悼記事・経歴を記載しています。 クラフト・家具デザイン分野デンマーク出版物は、取り次ぎがなく冊数が限られていますので、Copenhagenまで足を運ぶのが確実。
DEN PARMANENT Catalogue 1976 296 x 296 x 5T mm p.48
inspiration 78 p.22 230 x 242 x 3 T Dk 15.-
udvalgte arbeijder tegnet af 15 danske Moeblearckitekter
5人のデンマーク家具アーキテクト作品 /1978
p.22 230 x 242 x 3 T Dk 15.- 表紙モデル:CH-51
*北欧ブナ材のデザインお盆・継手実物は、次の「木の大学講座2015」で展示解説します。
ⓒ 2015 Kurayuki, ABE
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木の総合学研究 2015 – 2019 「北欧ブナ材の加工品」「指物・継手」「木工ジョイント」
「デンマーク家具産業のデザイン発展期」「DEN PARMANENTE 」
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