「木」の道具・工具伝統文化工芸

鍬台柄差 農耕具柄接ぎ 棒屋の手仕事 「ブナ・楢・白樫」 木のジョイント- 15.

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

ブナ樹林帯の農耕具柄接ぎ三様。山形・福島・群馬の鍬型・技法のちがいがあり。技能伝承が持続した背景には、資源環境・制作現場から販売経路まで深い関わりがあります。「棒屋」「堅木木工」とよばれた柄付き道具専門職の手仕事を修理再生できる自然素材のジョイントテクノロジーからクローズアップ。

 日本全国各地には、地域独自の農具、鋤鍬がありました。農耕作業の基本道具ですが、機械化が進み、職人手作りの木製品は姿を消しつつあります。台(篦)の形・構造は地方毎に特徴があります。民俗資料も多数残されていますが、伝統工藝技能として注目されることがなく、また、棒屋・堅木木工の制作記録、柄接ぎの比較研究はないので、関東・東北圏ブナ科ネイティブ材の実作を記載します。
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 ブナ(橅・山毛欅)は割れにくい材質ですが、柾ブナと呼ばれる木目が通り均質・細目で鉈割りできる優れた個体があり、20本に一本ほど混じります。普通のブナ材は、鉈割りできません。割り木地を自然乾燥後、鍬台・柄を制作。ブナ柾は、会津では杓子作りに必要な材料ですが、最近のブナ伐採禁止で制作者も消えかかっています。数年前から東欧からの欧州ブナが逆輸入されるようになり、全国に無尽蔵とされて用途拡大、産業需用促進を国策としたほどですが、明治・昭和初期までの資源状況・環境問題が激変しました。ブナと楢の農耕具・棒屋・堅木木工職の制作技能・柄接ぎジョイントから地域性・加工や構造の違い、実物により現役ベテラン職人の技能を記録し解説、ブナ柾の内科とDNAは、これからの研究課題になります。
 ブナは、明治期から粗末な扱いをうけ、欧米に膨大な量を輸出し続ける。環境保護運動で注目されるも、ついに資源が枯渇してしまい、東欧などから逆輸入されるような状態に。近年まで貴重な自然素材として大事にされてきませんでした。去年初冬、山形で活動してきた大田 威氏にトチの王国巨樹製材見学会でお会いし、ブナ樹林帯の生活諸相を総合的に記録されてきたことを知り、直ぐに木の大学講座2015 「ブナとトチの時間」をテーマに講師をお願いしました。ここ数年、ブナの花が咲かず実ををつけず、鳥が泣かなくなったと。ブナ森も昔の橅ナラズです。環境激変、ブナも姿を消すのでは総合学研究も急がねばなりません。

① 山形 鍬台作り (カンデ差し)

・山形県朝日山地 温海町越沢  五十嵐五郎作 (大田 威氏 蒐集所蔵)
 材質:割り子(木割り木取りブナ)  台幅: 5.5寸- 8寸- 1尺 W 高さ一寸H 長さ:9寸- 1.1尺L 柄角:70度 柄 長:9分 x 1.3分 x 2.7~ 3尺  1kg(2,7尺)
ブナの大木200~ 250年生、目通り径 80cm -1.6m、 柾目割りできる良材 (柾ブナ)山どり
柄頭の接合部先端の斜め切りは、ガッチリ嵌合させる構造で頭部側楔止めが必要ですが、この実物では楔打ちの隙間はなく先端のテーパーと孔の欠き込みによる弾性固定。下端から柄元を差し込み、篦板にきつく嵌めるため、内側にR面取り。材が痩せればガタがでますので、頭に止め楔を後から打つため5mm程の楔返し突起をつけた枘先。
「篦に柄を締めるときはトントン夜なべ作業」他人に見せない門外秘でした。越沢型では、ユーザー自身で楔締めするかは不詳です。ブナの木とともに暮らしの道具には、数百年余りの歴史が刻まれています。現在、伝習技能者はなく、貴重な実物は木の大学講座にて太田 威講師により展示しました。
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柄は篦(台)の下から引き込み頭を嵌め、鍛冶屋で鉄刃を嵌めてもらい使う。鉄製の刃を台篦の先に差し込むので風呂鍬と呼ばれる。鉄刃は、地元の鍛冶屋で取り付け。鉄刃をつけると深耕できる。    柄の据え替え、台板の交換修理ができるように楔締め分解構造。
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②  会津鍬 篦と柄

柄頭を丸鉋で面取りして篦孔(一寸一部x二寸七分)に挿入して頭部に止め楔で緊着する。枘孔がストレートではなく面取り形。柄頭の緊結には優れているが、孔掘込み、楔打ちは修理ともに熟練を要するとされた。
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材質:ブナ割子(割り木地) 5寸W x   1.2尺 L x 1寸 H      柄長:2尺7寸  柄勾配:中立型 52度、小立型44 度 現在、制作技能保持者、研究者はいません。
會津地方の鍬台差しには、ブナ(柾ブナ)の割木が使われ、丸鉋刃で削り柄頭の前後銀杏繰りをR曲面にし緊着。刃先金物を仕込むときに楔止めしますが、図では頭先端の楔止めの突起が描かれていません。
「鍬柄と篦」    S: 闊葉樹材利用調査書 第一輯 ぶな類篇 昭和4年 1929(p.57 – p.61)

③ 手鍬 (テンガ)・台鍬 群馬型   980622  久保和正 作

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台板:水楢材 135W(82) x 315L x 30(10)mm T  510g
 柄:水楢材  柄長さ:四尺  1,230L  柄角度:53度  (34 x 27 – 長丸面取り32 x 24 )795 g     現在価格 ¥21,800 -  柄:¥6,500-
 関東地方・群馬前橋地方は鍬・農耕具の一大産地でした。杵・鍬・カケヤ・カマなど柄付き木製具・棒類は棒屋と呼ばれる堅木木工職の手仕事です。
山里仕事の①作品に比べると関東都市部に近い産地で量産が続いてきましたので、形・構造も洗練されて現在の姿に。作品蒐集協力:町田忠男
材質:水楢製材・柾挽き 主に北関東沼田地方産出材
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止め楔
 柄頭の先端部は、楔打ち止め用の斜め突起をつけ、孔の密着・嵌合強度をあげる(弾性固定)
頭に楔を打ち固め、台孔両側面に割れを防ぐ逃げ抉り内溝(幅約2分)をつける。柄を台の下端から差し込み先端の突起部「楔返し」を嵌合、打ち楔を入れると柄が緊結される。
台材は、原木丸太用つ割りから柾挽き三枚どり。柄は、柾採り後の脇材を使うので端部に板目が入る。板目部分は若干反り変形することがある。丸太製材では台と柄が採寸できる 6尺玉切り、一寸厚追柾に木取り材料のロスがない木取り。
白樫材自然乾燥は、5年以上   6尺ものは15 年ストック。木片も止め楔に使えるので保管し、荒取り後に手あぶり火鉢の脇隅で乾燥直ぐ使い。用材丸太は4mものが枝下通直で良材、五節以下を購入する。2mものでは、枝下が短く入り節や捩れあてなどが欠点が出やすい。
仕様について:(群馬県 前橋市 棒屋専門職 久保和正による説明 20150528 , 20151015 工房取材記録追記)
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鍬は、シンプルな形状ですが、農耕作業につかう耐久性を持たせる工夫や細かい加工、材料の扱い方に伝承技術があります。農地地形・土質・作業姿勢で鍬の仕様が変わります。定型標準はなく、形・名称も地方で異なります。
・大楢・水楢材のみを使い、台は平柾か追柾製材 木口割り端部は柄用
・柄頭接合部を大きくして応力集中を分散、十分な強度を保持
・篦・柄接ぎをして鍛冶屋に注文した先金物(袋)を削り合わせで嵌め込む
・最後に柄元に内楔し固める
・楔(白樫)止めは、使い摩耗して減るので楔が上がってくるため、締め直す
・斜面耕作地では土が下にさがるので柄の角度を起こす
・畝の真上で土起こしする所では、柄の角度は起きる
・柄長・角度は耕作地の傾斜、土壌土質硬軟、農作業の姿勢(畝マタギか斜め起こし)各地方の習慣で差違あり
・山の傾斜畑では、柄が短い。新潟県の注文は柄が短く(三尺) 静岡県では畝横で使うため柄が少し長い(五尺)、関東は四尺
・柄の長さの基準は、臍の位置あたりが目安
・耕作地形や地質・作業姿勢で柄が変わる
・黒鍬は、重量がかかり強度が必要なため樫材の柄をすげる
・木製鉄刃付は、土を深く起こせるが、最近の金属板出来合いは直ぐにへたる
・刃物・金具は地元の鍛冶屋と連携
その他
・機械化されても手道具が必要なので、現在でも途絶えず、注文制作の依頼が続いている
・現在まで伝統工芸分野としての技能調査・記録はない。
・現在、現役専門職人は群馬県内は3名ほど(群馬県名工)
*鍬の種類:作鍬、大鍬、黒鍬、サガラ、唐鍬、小鍬、窓鍬、三本鍬、左官鍬 等
*柄及び篦に使う樹種:ブナ、楢、桜、朴、イタヤ、櫧、欅、栗、ハン、沢ぐるみの他 榎、杉、一時期 南洋材ラミン

後継者の育成ゴメン

 後継者・弟子の育成3年、ようやく仕事を覚えたころ挽き抜かれたり、手許が工房独立しては、親方は全く割に合わない。お礼奉公という仕来りはすでになく、生徒は学校で授業料を払い教えてもらい、教員は、給与をもらって尊敬され。
一方、教えながら面倒をみる親方はドンドン瘦せ細るわけ。職人は、取材・指導をうけても無償無給。親方筋は、実際の現場力を身につける伝習・育成の場ですが、現法では保険や最低賃金を支払わないと雇用して教えることができない。その上、仕事を覚えないうちに辞めるので、弟子不要論。さんざん、先達の親方たちは気の毒でした。訓練校は、昔名  徒弟養成所でした。本来は「工員育成目的」ですが、ゾウケイサッカを志望する安直組みが増えていますので、やがて統廃合されます。

親方筋をもつ

「型無しの学校で教わるののと違い、親方筋をもつことは基本を身体記憶し、振る舞いや作法などあらゆる面で継承する重要な意味があるのです。工房の運営・生計を確かなものにし、技のみでなく本質的な美の世界を受け継ぐことになります。」20141103ABE
*知られていない「棒屋」の仕事を伝統工芸技術として、ベテラン職が健在なうちに教示をうけ、全てを集録するのが急務です。
*「木の大学講座 2015 第12期」日本産ブナ科材と共に欧州Beechサンプル実物を公開。20150707 、20151015 ABE 追記

ⓒ 2015  Kurayuki, ABE

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木の総合学 2015 – 2019 「木の農耕具 柄接ぎジョイント」「ブナ科の工芸的利用」「棒屋・堅木木工」

 

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