「木」のコレクション「木」の皮膚科「木識・木学」工芸木の内科

ブナの割り子「ブナ柾」_樹皮から芯央へ入る「ぶな目(逆放射向芯組織)」木の内科-12

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

衝撃吸収・粘り靱性や均質な硬さと加工適性_優れた木目美観は、樹皮層から芯央へ求心成長する水平組織「ぶな目」ができ、ブナ科の有用材質を特徴づける髄線は鉈割り目で削る。

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 ブナには、白・赤・黒の他、鉈割りできる柾ブナがあり、ブナ自然林の20本に一本ほどまじり。ブナ柾は、素性のよい優良材として昔から杓子・篦作りや手鍬、手工芸品に使われる有用樹資源でした。大規模伐採が環境破壊を起こし自然保護運動を経て、現在では、国産ブナ材はなくなり貴重材。

数年前から逆輸入。福島地方では赤、宮城・岩手では白が多く、栃木栗山村では黒ブナを産出。それぞれ材質の差違は、生育環境や遺伝子レベルのもあり、ブナの内科研究はこれから。樹木学の専門図書には、ブナ科内樹皮からの「逆放射状細胞」の出来方は見当たりませんので前稿に続き皮膚科と内科を掲載。

内樹皮組織から木部・芯部へ入りこむ柾割りブナ目(樫目)向芯細胞

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 内樹皮との境に鱗片状突起ができ、この接続細胞が肥大成長とともに材部に微細長粒形の組織が取り込まれます。ブナ科独特の放射組織も樹皮の内層から外へ成長していく形成層とは逆に芯部へ向かい、木材部を太く強固にする細胞。このぶな目は、縦方向の繊維に相貫して格子組みのような水平補強体になり、同時に木理を特徴づけ、緻密でしっかりした人肌に近い質感となる。

因みに、樹皮付き材は木喰い虫がはいるので、材木屋・木工職は、樹皮に近い辺材部分を「両耳落し」カット。樹皮の連続経時変化や細胞組織をみる機会はないのですが。木肌に出た突起状細片は、触れると指先が切れるほど。鋭利な青樫、細かく多数の櫟、繊細長な柏・水楢など、栗を除くブナ科共通の組織です。

「放射組織」という外部拡散ではなく、実際は芯央に向って行くので「逆」をつけるほうが細胞の動きを反映しており、むしろ「向芯細胞」「 逆放射向芯髄線」がふさわしい。内皮から辺材に入り年輪を貫通し、幹の横水平耐力を増強する立木が存立するための重要な樹体細胞構造です。

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ブナ目は内皮から芯方向へ水平に入り、直線で10数年成長後、さらに斜方へ動き、分離されて芯央部に散在。(208yrs. 奥会津金山町沼沢根ムクリ倒木 厚板)

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ブナ大径木 208yrs. ブナ目向芯細胞の動きと立木樹体バランスの組織変化痕跡
樹皮内層から発生し水平に辺材部を通過、芯央部へ入り込み年輪を貫通してブナ目髄班が十数年間連続成長。その先は途切れ、分離して変位し斜方へ流れ、揺らぎ芯央へ向かう。次第に目班は小粒になり散在し粗密になり年輪幅の中に静止している。

単順に均一肥大するのではなく、芯反対側「腹」辺材は単調なブナ目均一点在で傾斜地立木の自立強度バランスが反映。明らかにバイアスのかかる部分には異方性が、引張テンションのかかる部位では等方向芯細胞分布の発達違いが観られる。

樹芯からの成長は若木では同じような周囲は均一肥大しますが、高樹齢材ではシンメトリーではなく、立ち木の全体バランス保持から繊維方向が逆に走り、伸び圧迫に拮抗する逆目木部層を形成、倒れないように強化するように変質してきます。

樹体は、単順な細胞肥大_繊維成長を繰り返すのでは無く、成長段階で自らの樹体を維持する構造的バランスをとり組織を連続的に変えていく様子が判りました。成長と同時に連続的に細胞組織が動きますが、大径木の芯央部は安定しているものの、樹脂色素の移動変色が起きます。
最終的に安定する時点は成長限界までですが、樹木内部は全身を統御しつつ、静かにダイナミックに活動しています。芯央部は、従来の学説がいう「休止・死滅状態」不活性組織ではありません。

他のブナ科青樫の樹皮から成長し樹体強化する樫目向芯組織

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ブナ科ファミリー例:青樫の内樹皮と樫目鱗片 – 逆放射組織(髄線)  20110618AQ

ブナ・樫材質の見わけ方

   同じブナ科の樫類に比べて、細かな小鱗片形が規則的に走り、ぷっくり丸い太形より「すらっと細身で整って均一に入る」材質が素性のよい優良材とされてきました。白樫・赤樫・青樫は、いずれも粘りがあり、細身の真っ直ぐな樫目が良材。平台鉋には、追柾が良いとされますが、板目使いでも差がなく、樫材だけは例外で「板目が柾目」使いとなる。
鉋台打ち職は、木口を2−3mmカットして曲げて樫材の粘り具合を見ます。ブナ科の逆放射組織は、見た目は他の広葉樹材と常識的性質が違うのです。

柾ブナの当て身、柾見 福島・山形の選材と鉈割り伝統技法の衰退

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 柾ブナの当て身は、幹が真っ直ぐのび、捩れていないものを選び、根元から50cm~1m程の樹皮を鉈で削り、木肌で柾割り出来る樹を見分けます。樹肌は、緑色がかったものがよく、ぶな目が並行で流れ、均質で通直な150~200年生ほどの幹元木・二番玉を使用。目が曲がり乱れた不均一な木部は、鉈で割れません。
手鍬用は、長さ4尺の柾材、杓子・篦は1尺の玉切りです。立木樹皮を削り取る「当て身」も勝手にできない上に、ブナの大木が枯渇し、入会い山でなくなると「国有林の払い下げ」でまかなっていた時代から、伐採後の材木市場での入札制に変わりました。
割れるブナ材の仕入れが極めて困難になり、自然林保護・禁伐規制で山村での「杓子ブチ(造り)」の伝習技能の後継者なく、消えつつあります。柾見をした樹幹の傷口は、やがてふさがり、盛り上がるので見分けられる。「アテミ」は山形朝日山系、「柾見・マサカキ」は福島会津地方。
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AQ950627 オグラ木材製材工場 ブナ水揚げ期伐採直後の木口擬芯模様・ボタン
 会津ブナでは円形に近いのもが健常、辺材白太に「くんしょう」と呼ばれる突起星形が現れた丸太は、製材後に細かい割れ・変色がでる。(芯部から樹皮への色素移動が起きているのは、樹皮などに損傷・ダメージがあると見られるが、実際に使う段階にならないと程度ははっきりしない。)この頃はブナの伐採丸太が時々製材工場に運ばれて来ていました。伐採直後で元木木口の様々な芯色模様が現れています。原生林・自然高樹齢樹では、斜面に生える立木には曲がり・捩れが起き、複雑な樹姿となりドイツなどの平地林相のような大人しいスンナリ樹幹は少ないので、太い長尺の良質材を求めるのは無理なようです。

国産ブナと欧州ブナ

 日本ブナは、高樹齢、深山の原生林に近い環境下で枝振りが乱、自然更新。平地林で中世から強度の森林伐採が続く欧州ブナは、樹高を伸ばし、樫目は細い傾向があり、若い樹齢。材質は、吸湿膨張変形、黴菌類変色は同じです。湿気の多い日本では、「腐れが入りやすく、扱いにくい木材」とされて来ましたが、明治から昭和にかけて人乾技術の進歩で紡績ツールをはじめ、家具・建材に多用され、同時に輸出ドライブが続き、膨大なブナ自然林がなくなりました。
樹齢差以外の材質・物性は同じようですが、国産ブナ材を劣質としてきた専門書の記述には、実際とは違う評価内容、喧伝が多いので生育地・原木丸太から製材・シーズニング・木取りまで検証します。本当は、独特の優れたクオリティマテリアルです。何故、ブナ材が貶められたのか、その産業政策の背景や専門家の知見孫引きが見えてきました。
 ブナの若木は、灰褐色から成長して灰色(赤褐色)になり、芯材部に色素が蓄積し、ボタン花弁状の擬芯模様ができます。樹皮が薄い樹幹が張ったものが良材である場合が多く、樹皮が厚い大木は変色・ボタン擬芯入りが大きくなり、材色組織差が大きく材質は劣る。
 ブナを「落葉かし」と呼んだ時期があり、産出地差もあります。樫材に近い堅い材質で木工具に使われるEnglish beech malletなどビーチ材には材質・比重密度に幅があり、現在の欧州ブナ用材は基本的に植林木です。冬になるとドイツ中部では、ガソリンスタンドでブナ薪を販売していますが、ほとんどが割りやすい材質で日本産樹と大きく違う。
急斜面の山岳地と平地林の違いや酸性土壌とアルカリ性、古代から続く国土と氷河期を経た新しい生育環境とのグランドの違いが影響しているのですが、ブナBunaとBuche (ドイツ語) 語感がよく似ています。 デンマーク語はBøg、スエーデン語はBok。
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Vogel ,Düsseldorf   890502
 自然木のブナは、これから思いがけない新しい用途や価値が見出され、循環再生系の根幹に位置して人間や動植物の最も休まる拠り所となるでしょう。
*アイキャッチ画像:ブナ柾の杓子ブチ 作品 檜枝岐 平野吉信作 AQ20030927 実作記録 / 110yrs. 玉切り410 mmφ (芯部ボタン入り65yrs. )柾割れ一本  産出地: 南会津郡伊南村 戸坂峠・大規模林道飯豊檜枝岐線工事中止地 再伐採丸太 (20030820伐採)検太21本の内、10本購入/オグラ木材製材工場20030830AQ
「ブナ柾割り杓子ブチ」は、別稿「杓子造り(栗、朴、ブナ)素材と伝承技法」で取り上げます。
*実物・実作モデル、関連資料は、今月の第十二期木の大学講座「ブナの時間」で展示解説予定。

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木の総合学研究 2015 – 2023   「ブナ材の柾使い」「ブナ目・樫目」「杓子ブチ・手鍬差し」「伝承鉈割り木工の技」「Beech Wood – Insight」

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