「木」と産業「木」の道具・工具ジョイントシステム木の内科木工

木の大学講座「ブナの時間」補講-1. 「ブナの糸巻きボビン芯軸受ジョイント機構」工業材料の本質と再評価  木工ジョイント -16.

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

明治から大正・昭和前期の紡績・繊維産業を支えたボビン(糸車・木管製品)には、膨大な需用が国産ブナ材でまかなわれ、シンプルな糸巻きには、ベアリング導入前の高速回転軸に耐える高度な純木ジョイント構造を見ることができる。再生循環系から自然素材ブナの優れた材質・物性、評価を見直します。

ブナの特性を活かした回転震動吸収・軸受ジョイント機構

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積層した両輪は、柾目・板目繊維方向をクロスバンドに積層。軸の接合には、「吸付き蟻」に軸芯部の回転振動応力を斜めから貫通一体化補強する「鵯(ヒヨドリ)栓」技法がつかわれ、ブナ材でなければできないジョイント構造が造り込まれていました。ボビン収集及び構造デザイン解説:平田哲生 20150627

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単純な形状にこめられた軸嵌合部の複雑なデティール・切削加工精度

 高速回転する軸受け部は、高精度の切削加工・耐久性能が必要です。大量生産でいかに寿命を長くするか、工夫が凝らされています。軸はブナ柾、フランジは、柾・板目のクロスバンドで反り変形を抑制。軸受け部先端は、密着度を高めるため切り込み、圧着ワッシャーを打ち込み後に木殺し。回転摩耗・変形ガタを抑える斜方ピン差し。回転精度を保持する手の込んだ構造でした。ブナ材と性質を熟知した納まり。
丁寧な工作は、糸車が重要な紡績量産ツールであり、高価な耐用品であったことを物語ります。嵌合ジョイント部にブナの均質組織・曲げ木性能を巧みにひきだした合理的なデティールです。ブナ材は、合成プラスチックに変わるまで、産業の裏方では広範囲に高度に利用され、本当に優れた手工芸・工業材料の歴史を刻みました

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糸巻きスプール構造

大正ボビン株式会社製 仕様:ブナ材  輪径 102 x 150H  168 g  フランジ12(11.2)mm 芯軸径31.5mm
① 両輪〔翼〕・フランジ クロスバンド:ブナ挽板柾目と板目繊維方向を直角に合わせ接着積層 反り止め
② 軸芯  径31.5(32)mm 中繰り14.5 mm  柾目材 先端嵌合:吸付き蟻形フランジ 先端部切り込みで密着度を上げる
③ 軸受けフランジ (軸芯先端部と嵌合)外側に密着ワッシャ打ち込み木殺し 柾目
④ 外側に密着ワッシャカシメ 打ち込み木殺し 追柾材
⑤ 斜め貫通軸固定ピン 6.8mm丸棒ヒヨドリピン打ち42°-48°(フランジ両側面からドリル穿孔、最終工程で突出部分内壁中刳り仕上げ)
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撚糸巻きスプール:粗糸や撚糸を回転巻き取る木管・糸車 / 大正ボビン製「がら紡」工場使用品(ぼろ布をほぐし、糸に巻き取り再生布とする産業分野)

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三次元に繊維補強されたユニークな傾斜組織をもつ自然素材ブナの特質、経時変化

 樹幹の形成層による成長肥大が均質で、同時に樹皮の内側から芯に向かう放射組織(ぶな目・髄線)が入りこみ横軸筋が形成され、粘り気、靱性が高い構造となります。木部が肥大するにつれて放射組織は縦繊維に絡みながら連続傾斜組織を形成。
更に、ブナの放射組織(髄線・ぶな目)は、自然乾燥の経時変化で年輪層と共に木理が白くなります。自然素材でありながら対摩擦、衝撃吸収、切削造形や粘り変形・成型性、電磁波遮蔽など、再生循環素材として貴重なエコマテリアルになりました。このサンプルは、南会津地方の赤ぶなです。MT: 20030110ABE
*ブナ科の木材(ブナ・楢・樫・椎、コナラ等)のは、振動・衝撃吸収性に優れ、道具、棒柄、器具材に昔から多用されてきました。高度成長期前は、国産広葉樹材の中で最も蓄積があり、需用用途が広い樹種でした。
*紡績用木管類の他、シャトルの製造の推移、業界専門職の技術記録や工業所有権等についてさらに調べます。現在、製造はプラスチックに替わり、木管から楽器へ移行しています。シャトルはシデの圧縮材加工ですが、木製時代からのメーカーが健在ですので、精密木工技術の歴史的発展も明らかにできます。
© 2015, Kurayuki ,Abe

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木の総合学 2015 – 2019 「ブナの材質と精密加工」「木製糸車のジョイント機構」

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