MT マテリアルトリートメント「木」と産業「木識・木学」木の内科

木の大学講座「ブナの時間」補講-2. 「ブナの異常識イメージ・木識をかえる」 ブナ論考-1.

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

    腐り、暴れ狂う、低劣安物イメージを植え付けた輸入教科学説と商材の異常識を内科ネイティブ視点で再考し、歪められてきたブナの天性・本質を明らかに。

 産業高度利用材と重視しながら、品質上の問題点や欠点をことさらに強調。潤沢無尽蔵のはずの森林資源は消え、低質・安値イメージを固定化してきた史的内実を解明するとともに再生循環系自然エコマテリアルとして再評価され始めるも時遅く、国内の膨大な天然林は皆伐され、ほとんど消えてしまいました。

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20030820 夏の伊南村戸板峠伐採木:早期製材後自然乾燥・マテリアルトリートメントで黴び干割れ捩れ変色無し12年  ブナ材の木目の美しさ・柔和でやさしいカジュアルな材質感は、他の広葉樹種に優る繊維交錯、緻密な材組織が秀逸。福島県産材ブナ赤は、硬くて上質。冬目は肥大が僅かで割れにくく、均質安定。長期自然乾燥では、熟成すると年輪木理が色抜けしてきます。

ブナ材に関する古い常識と欠点品質・安物イメージ、低い地位に抑制してきた事由、商材にまつわる様々な都合や誤認が明らかになります。

A. 原木伐採搬出・市場取引・製材へ、ビジネスフローは品質低下へシフトしていく

 晩秋、樹々は水揚げがとまり伐採適期に入りますが、冬場は豪雪で山仕事ができないので、春先残雪の頃から4月-5月に伐採搬出。梅雨時、夏をこえ、9月期に製材するのが年間作業工程です。梅雨・夏を過ぎ「黴び入り製材」になるようにしているのと同然でした。(南会津地方や東北各地山間部製材工場の年間スケジュールによる)
水中貯木、水掛、防腐材塗布しても菌類・昆虫の活動期に防御はできません。既に原木丸太に入っているからです。欅・樫など高級銘木材となる大木は、冬の新月伐採でしたが、ブナ科は販売単価が安いので粗末な扱いが普通でした。(ホウノキの場合は、一年ほど土場放置しても変色しない抗菌性があります。)数ヶ月の土場放置後、市場へ運ばれてくる。生鮮食材ならばアウトですが、木材は半生状態が続きますので伐採後30日が材質保持限度と見ています。品質低下は、ブナ固有の性質を尊重しないダラ現場作業も一因、安値が商材の荷扱いを粗末にしていました。
 B. 伐採・製作納入期と製品加工・需用購入のタイムラグは値引きモード 
 ブナ製紡績用木管の事例では、都会の仕上げ工場入要時期は12月から3月の間。山元、山林伐採作業は11月から始まり原木搬出期と重なります。加工場では人手が足らず、品質不良半製品の問題などが起き、安く叩かれたり、時期ズレ供給過多となり、安い材料價格・工賃に低落しがち。買取り側と製造者の検定基準の操作など低安な方向へ抑え込まれた一面もあります。仕様規格・標準工業規格ができる以前の時代の様子を伺い知ることが出来ます。
C. 安く使うために材料重量・運賃コスト、市場相場からのマイナス評価
 「調査書」では「原木搬出コストがかかり、老齢木が混じり歩留まりも悪い」と書いていますが、「硬くしっかりしている重い材だから優れた材質である」ことが欠点にされ、芯材やボタン擬芯部分がロスになるとは。腐蝕_
老齢木に見えたのは、乾燥すると目立たなくなる芯央部の抗体・変色模様でした。
 ブナだって生身、人間様の都合に合わせてはいない。運賃比率やマテハンは別問題です。他の材種に劣る理由を無理矢理つくろう。更には、奥山で伐採費用が余計にかかるという。本来、200 – 300年の時間の賜物、手間や経費がかかる大事な天然資源材料であるならば、安く使おうとするのは大間違い。安いからジャンジャン伐り使い果たし、山奥にも無くなりました。材木商のビジネスメリットや商材として、安材木に流れる流通市場の相場変動も影響しています。

D. 産出地・山元側にも木材価値・山林評価を抑える裏都合

 ブナ林に生計依存してきた山の人々は、共有・入会地を明治維新の地租改令で国有林化され、自由に伐採利用できなくなり、さらに共有林は課税されると評価を抑える仕組みを考えだすようになって、ブナ帶の樹木の資産評価を低くするようにバイアスがかかるようになりました。高値で売れる巨木も表だって良質材をアピールすることは地元にマイナスになるため、いくらでもあり重要ではないというイメージに。

「木偏に無」と書いたのは後世の間違いでした。江戸中期の和漢三才図絵では、木扁に「無_ではなく、「血」に横棒が入る当て字で「ぶ」と表記しています。「ぶな」の語源由来は書かれていません。「ぶな」は、ドイツ語Buchにも似ている語感ですが、古来からの履歴はこれから明らかになるでしょう。

東北地方では、江戸時代から手をつけなかった深山・急斜面の天然林は、高樹齢で素性はねじ曲がりひねくれる。業者が狙う太く、素直でストレートな丸太は多くないので、皆伐すれば使いにくい原木丸太がまじるのも当然です。山元側の収益バランス、裏の都合や資材利用、利権からみの諸事情も影響しています。

E.塩木 ブナ薪の高い火力、燃焼効率が抜群な自然燃料の流通マージン

 ブナ薪は丸太で切り出され一尺ほどに玉切り、冬期に川流しで日本海岸へ搬出され、製塩釜焚き燃料に多量につかわれました。
ブナ薪は火力が高く、トロトロ長時間釜焚きに便利で各地へ送られ、家庭用薪にもつかわれた。販売元締めは販売収益をあげ財力を蓄積。山人は低い労賃で働き、やがて山林資源が枯渇し、電力・地下資源エネルギー革命とともに塩木出しは昭和12-3年で終焉。ブナ薪の優れた燃焼力が一時代、自然塩の製造や家庭用焚き物に大きく寄与していたのです。S:「ブナ林に生きる山人の四季 太田 威  1994 」ブナ薪の燃焼熱量、燃え方の特徴、純木灰などの定性を把握するのはこれからの課題。

F. 鍛冶用黒炭と火薬化学原料

 ブナの均質な組織は、柔らかく炭化して粒子を揃えやすく高い火力燃焼が黒色火薬原料に最適でした。火力が強いので鍛冶屋の火造りに重用。花火・産業火薬に多量につかわれ、限定調達・價格管理されやすい品目。関連産業の需用動向は表に出てこないので、あまり知られていない材料ニーズです。

ブナの来歴と本質を知るためにブナと人間の関わり、総合的見方から実学アプローチ

 他の広葉樹種にはないブナ独自の性質・優位性メリットを反証するブナ研究レポートは、現在までありませんでした。既往の文献・専門書の内容を検証しないで学校現場では「ブナ」の本当のすがた、優れた物性・有用性をきちんと教えずじまい。古来からブナの恩恵を受け、樹と共に暮らしてきた山人は、木材利用も再生循環の範囲でしたが、明治以後の製材加工機械の発達で未利用材資源と目をつけられ、急激に森林伐採・開発の手が入りました。産業界では、膨大な原木伐採、製材加工、製品産業利用ドライブを続け資源枯渇させて数年前から禁伐・保護樹木扱いになりました。
更に、産業指導指針とされた官刊行物を判読すると、行政管理と業界の様々な事情が見えてきます。

「木材ノ工藝的利用」明治時代の政府刊行図書が先入観を植え付ける

 ドイツ林学・木材学をメイン手本にした先導書は、近代から現代まで山林・木材研究の現場実学を置き去りにして「ブナ科」の産業利用資源の利便を強調。欧米後追目線が100 年余り続き、土着地物への深い関心・体系的総合研究はなおざりのまま。
  明治政府農務山林局は、先進のドイツ林学・木材理論をそのまま導入したため、日本国産材との比較、原産出地による差違の基礎的な研究を飛ばし、翻訳学識をそのまま引用し当てはめた結果、現場の実学、ネイティブな知見は無視され「翻訳引用学」が教本となりました。開国後、渡欧して学術領域レベルの高さに驚愕。急遽、ドイツ版手本を勉強し、ジャパン木材学・森林管理制度を倣いつくりあげたのです。広大なブナ林を乱伐続け止まず、会津地方では営林署が近年こっそり不法伐採する事件が起き、絶滅荒廃の瀬戸際まで来ました。
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ブナの加工実業に関する政府調査文献の初出は「木材ノ工藝的利用 明治35年 農商務省山林局編」巻末の附録でブナを筆頭に楢・樫(ブナ科)及び、桐材という当時の有用木材の個別樹種解説を編纂。
巻末附録にあるブナ・楢・樫・桐等 個別重要樹種解説では
 「ぶな材」の長所(現代語訳)
① 特に均質な組織で回転工作や精密ではない彫刻材に最適(切削性)
② 引張り、圧縮、剪断抵抗が非常に大きい(耐久性)
③ 研磨性に優れる(木地加工性)
④ 着色・染色が簡単で貴重材の模擬材にできる(塗装性)
⑤ 蒸気による曲げ木加工性が最も優れている(ベスト曲木塑性加工)
⑥ 硬質で他の堅木の代用(堅牢・転用高寿命)
⑦ 薪材に割り易く、火力が強い (長時間高燃焼効率)
⑧ ぶな炭は、特に黒色火薬用に適している (化学工業用途)
 続く「短所として」
① 弾力性・応力(負担力)が小さい (→ 硬く粘る靱性に富む利点と相反するので欠点X ではなく、逆に耐圧縮・剪断応力が高いブナ本来固有の性質)
② 材が重いので運賃がかかる (→ 硬い材質は、重くしっかりしているのであたり木)
③ 芯材に年輪とは違う擬芯模様がでるので防腐藥剤が注入しにくい。枕木にできないから用材率が下がる。
(→ 芯材部の割れ不向きは普通。擬芯木理を有効に化粧材に使いこなしてしていない。加工技術が未発達)
④ 乾燥が極めて遅いので製材後の管理、腐食に注意 (→水揚げ前伐採、スピード製材、十分な管理、自然乾燥マテリアルトリートメントをすれば心配なし)
⑤  天然林では使い物になる壮年木はすくなく、老木が多いので欠点が目立つ (→自然界の樹木は、世代交代を繰り返して倒れたら若木が伸びる。材料向きの良木ばかりが増えない。無理な要求で生態無視)
⑥ 鉋削りで毛羽立ち、材面に光沢がない( → 刃物がよく切れないだけ 刃回転数をあげれば平滑な仕上がり)
⑦ 水分吸収が著しく、膨張・収縮が大きいので干割れ・狂いがとても大きい (→ 表面塗装処理・集成材で構造的解決できる 手をかけず尽くさず、安直にしあげれば暴れて当然)
⑧ 硬い材質で枘・釘で崩れる (→下孔精度が適当ならば緊結保持力は高い。接合・嵌合接着性が良好な材質。まだブナダボジョイント構造を知らない)
⑨ 乾燥を十分にしても乾湿を繰りかえす塲所では忽ち黴びる (→含浸塗料などで処理して黴付きを遅らせる 油性分を含む欅・水目材等をつかい分ける)
つまり、利用価値が高く汎用素材・有用樹木で特に優れた材質評価。上質な木理・美的価値の評価がすっぽり抜けています。さらに、塗装し空気を遮断していれば劣化が進まず、カットすると内部はしっかりしたまま、非常にきれいです。清浄な材質は、ヨーロッパではいろいろな台所調理道具に使われています。用途次第で利点は更に多くなります。
本来、欠点に成らない項目を並べ処方を書かず、出所裏付けなく風説や聞き取りを混ぜる曖昧な記述には下げすむ空気があったから。
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 ブナの樹は、春から秋までどんどん水をあげ、山地土壌の保水力は富み、森林は清浄な水を貯える緑のダムと呼ばれます。盛んに水分を蒸散し、地域の環境や気象を安定。含水率が高くなる時期に伐採しているので、当然材質は劣化、黴び・虫さんが取り憑くのは避けられない。リスクを大きくする無理な人間の都合が貶めているわけです。
「狂い変形し易い」性向は、柾・板目の木口割り・木取り選材と乾燥・マテリアルトリートメント次第です。蒸気加熱して軟化、曲げ木加工するのは可塑・造形性が良い性質を合わせもつため。だから低級な安木でしかないとでもいうのでしょう。

生材では、腐りに見える芯央材色がやがて熟成して目立たなくなる。

ブナは樹齢が上がると芯央部にタンニン成分の縞ボタン模様が現れ、腐蝕と見間違い。長期自然乾燥では、冬目コントラストが薄くなり、白く色抜けしてきます。いつしか、木理が判らないほどに上質な木肌に熟成していきます。
多くの欠点・問題点を並べ、低劣でだめなイメージを強調すると、本来優れている資質が悪いイメージにかき消されるレトリック。ぶな安先入観、現場を知らない引用著述姿勢が背後にあります。実際のブナ材産業消費量は莫大でした。モノとして見るだけで、偉大な恩恵をうけているという尊ぶ感性がなかったようです。
ぶなとブナ科優先編集、先行発刊からみえる多用途・最重要材品目扱い

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「闊葉樹利用調査報告書 第一輯 ぶな類編 昭和4年 東京営林局刊」

第一輯 ぶな類篇 p.142    昭和四年 十二月発行
第二輯 落葉かし類篇 p.172  昭和 五年二月発行
第三輯 くり類篇 p.107   昭和五年 十月発行
第四輯 とちのき類及しゃくなげ科篇 p.116  昭和八年 三月発行
第五輯 ほゝの木類及かつら篇 p.107 昭和八年 三月発行
 明治35年以来、木材産業調査報告編纂担当者が継続してきた樹種別の利用を5分冊で続編として発行した小冊です。昭和2年からの新しい調査内容を盛り込み樹種ごとの産業利用状況を更に詳細に記述。最初のブナ類、次にブナ科を落葉樫類として発行したことは、最も代表的な基幹資源として注目し、木材利用政策に使われたことを意味しています。ブナとブナ科木材産業利用を強調した局内部資料の体裁です。
  ブナ材を加工製作している現場では、均質な木組織、切削・加工成型、接着・塗装性、電磁波遮蔽等、とても綺麗な良い材料なのに、まだ教科書・専門書は、実際の良材高品質を知らない。ブナは、腐り、狂い、歩留まりが悪いなどど製材工場職方も同様の固定観念が強いのです。このようにブナ材の優れた実力・固有の本質を知り、間違いや常識を改め、総合的に診る「ブナの内科・ぶな専科」開きます。
  地元のブナ材加工の実作は、水が止まった秋口に伐採、直ぐに木割り製材、屋内乾燥しており、材質が劣化するような春伐夏出材の扱いではない。鍬台差しには割木できる柾ブナを択伐、山直で製作しましたので、品質はよく多量に制作されたのです。
「會津に於けるブナの木取りは篦も柄も共に割木取にして、秋季伐倒したるブナの素性良き資材を撰み、中略 斯くして得たる割り木地は翌春迄屋内に放置し自然乾燥をなさしめ、翌年の正月頃より之が制作に従事す。」
春先伐採、夏土場原木の市場出しが製材タイミングを遅らせ、材質低下・品質劣化を起こす山師・材木業の仕組みでした。
* 「落葉樫類ぶな類篇  鍬柄と篦 p.60」
 実際に木を切り、ストックして継続観察すると専門書には記述されていない事柄が多く出てきて、既往の研究の偏りや空白域がわかります。無くなるまで伐り尽くす林業・木材産業の在り方が問われて来ましたが、学術研究に現地・現場の知見がまだ十分に反映されていません。物性・材料試験だけで比較評価し、実際とは異なる専門知識では行き詰まり、困ることに。外見だけでは判らない性質、カットサンプル材の動きや経時変化を記録する作業も伴います。生育地原木から、灰になるまで連続一貫して観る、木と人の関わりをあらゆる角度から総合的な視点で研究する基本的なアプローチが必要です。
© 2015 , Kurayuki, Abe
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木の総合学研究 2015 「ブナの内科的見方」「ブナの本質と素材再評価」「ブナと産業行政オペレーション」

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