「木」の道具・工具「木歴・木録」木の内科

木の斧 未知の樹 Xマテリアル 「びんらうし」Insght 木の内科 -15

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

商材知識・木材教科や標本、既往の専門学識を越える樹木の実相と多様性。意外性あふれる実材ビックリサンプルが研究領域を拡げる。板目・柾目から木口のカット面がでる実作や記録も少ない。また、木裏面や斜め削りのサンプルは違う表情をみせます。

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 都内の南米物産展で見かけて購入した今まで見たことの無い木材です。いつか樹名もわかると、早20年経ちました。その後は、見かけません。この木の手斧は、おもちゃではなくれっきとした実用切断道具。原産地表示なく、トレースバックできない途上国商品でした。斧に使う切断ぶっ切りできるほどの硬質素材。枝や骨付き肉を切断、原生林自然生活で武器・刃物、調理道具としてつかわれてきたと推測。材面は切断方向でコントラストの強い木理が現れます。かなり太い直径の大木。
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 芯材部組織が全く異質。仮導管径は、2 x 2.5 mm  ~ 3.0 x 3.5 mm  Ebonyのスパゲチィみたいな縦維管束。巨大細胞は、先割れ・接合切片つき、辺材部周囲には柔粗細胞がまつわりついています。蔵書の専門書にも記載なく、まだ判明していません。比重は黒檀クラスですが、ばさばさ感あり太い真っ黒な導管が割裂します。(左側::木表、右側木裏・樹芯)
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 更に、縦繊維を樹皮側から斜めに交差する太い導管が入り樹幹芯材部を補強(ヒヨドリ栓みたいに)。散孔材に見えるのですが年輪はなく、今までの学識外の樹種です。シルキーオークのような髄線・樫目ではなく、極太の縦繊維。導管というより細棒、極細繊維の固まった単細胞組織です。黒檀のようにタンニン色素が分泌されるのとは違い、繊維細胞体が黒く成長肥大しています。
ブナ科は、樹皮中ほどから芯材部に向い成長する放射組織があり、水平横方向の筋斑目が出来ます。縦の繊維だけで無く、外側から斜めに突き刺すような筋違い的補強生長する樹体はあり得るのですが、斜めくい打ちみたいに長く、しかも太い補強組織が鋭角に入る。粗蜜な材質でも斜め筋結束効果で曲げ捩れ耐力は強靱なものに。風雨や自重で倒れないようにブレースを入れ構造補強しています。木の内科的観察から、木もボンヤリ立っているわけではなく、静かでもダイナミックな生体機能を知ることが出来ます。
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「柔らかく・手触りがよい」から「硬く重い、金属のように武器・鋭利刃物にもなる」これは、全く反対の材質イメージですが、常識をこえる特別異質なサンプル。産出地も生態も樹皮・葉型もわかりませんが、この地上に存在。細胞が大きく成長スピードが早い様子、鱗斷面は進化前のシーラカンスのように古生代の姿をとどめているのかとも考えます。熱帯地域樹* ビンロウ・檳榔  (Betel Palm 学名:Areca catechu  L. ヤシ科)の一種のように見える個性的で興味深い樹種です。現地伐採現場で確認できると不思議な成長肥大の仕組みが判ると思います。

「びんらうし」

江戸初期 – 中期の工芸技術実物見本「百工比照」(加賀前田綱紀蒐集)木之類 第一重 に「びんらうし板目・正目」の見本板があり、木口切断面ではなく繊維細胞が太くは見えませんが同じ材のようです。
当時既に、珍しい唐木材に混じり輸入されて使われたことが判りました。木目と板目は、特長の識別に使いますが、木口切断面は、サンプル材でも隠れがちです。また、木口だけでは分類も難しい。20151215 追記

「びんらうし」「ビロウ」は神聖視されてきた古代からの貴重樹
「檳榔木画箱」の資料がでてきました。正倉院蔵 檜下地に檳榔・紫檀・黄楊・桑の単板が菱形に寄木練り付け
ビンロウは、蒲葵(ほき)のことで和名はアジマサ、沖縄ではクバという。神の聖所である「御嶽うたき」の神木  イザイホウ神婚、さらに奈良時代の天皇即位御祓にも現れる。独特の木理は、別格で霊力を感じさせる素材。仮屋・祭具にもつかわれる聖樹で蛇と菱形紋について記載 s: 蒲葵の話 正倉院「檳榔木画箱」によせて 吉野 裕子 朝日新聞1979年12月18日夕刊
木口面を使う細工は、硬い組織と周りの柔い繊維がバラケてしまい刃がたたないため、線状紋が現れる斜め切りの薄板化粧材を天平時代以前から神域で使っていたのでした。現在のハイス刃・チップソーの切削で木口の粒斑極太繊維がはっきり現れ、市場町場にはでたことがない見たことも無い木目材質に出会いました。歴史・産出地もわかりましたので、宗教祭事に関わる聖なる樹体の内科的アプローチをはじめます。道理で聖木に国内で出会うことがないわけです。20160104 追記

 

*購入時は、柄と斧の接合部(相欠き)は1ヶ所釘打ちしてあり、割れています。実際の木刃と柄のつなぎは蔓で縛り固める。刃部切削跡には、鋭利な鉈目が残る。207 x 280 x 28 mm   478g   山刀・鉈作り
*ARVORES BTASILIEIRAS  1992   EDITORA PLANTARUM LTDA , AVENIDA  ブラジル樹木総集本352種には掲載なし。
ⓒ 2016 , Kurayuki, ABE

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木の総合学研究 2015  「木の道具」「世界の珍樹種 – 木界・木録」「木の材料学」「Hard Wood – Insight」

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