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木の斧 未知の樹 Xマテリアル 「檳榔・びんらうし・ビロウ」Insight 木の内科 -15

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

商材知識・木材教科や標本、既往の専門学識を越える樹木の実相と多様性_意外性あふれる実材ビックリサンプルが研究領域を拡げる。板目・柾目から木口のカット面がでる切削や加工記録も少ない。また、木裏面や斜め削りのサンプルは違う表情をみせます。熱帯地域樹* ビンロウ・檳榔  (Betel Palm 学名:Areca catechu  L. ヤシ科)

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材面は切断方向でコントラストの太い束ね木理が現れ、斜めに貫く筋違い組織が出現します。暴風雨に耐え、内部で補強する構造的なはたらきが見えます。
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 芯材部組織が全く異質。導管径は、2 x 2.5 mm  ~ 3.0 x 3.5 mm
Ebonyのスパゲチィみたいな縦維管集束体_巨大な長細胞は、辺材部周囲には弾力がある
柔粗細胞がまつわりついています。
比重は黒檀クラスですが、ばさばさ感あり太い真っ黒な導管が割裂します。(左側::木表、右側木裏・樹芯)
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筋違い入り樹体構造
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縦繊維を樹皮側から斜めに交差する太い紡錘形導管が入りこみ、樹幹外周部を筋違い補強。

檳榔樹幹の耐風圧テンセグリティ外周部ブレーシング

芯央は軟質でフカフカ_環周部に硬い繊維束が形成されている特異な逆層レイヤー構造材です。

長い紡錘形の筋細を絡ませ、円筒状肉厚パイプ構造で強い風圧引っ張りに耐え、片筋違いをクロスして構造補強が一体化_目を見張る方杖ブレースです。 20230524 追記

 散孔材に見えるのですが年輪はなく、今までの学識外の樹種です。シルキーオークのような髄線・樫目ではなく、極太の縦繊維。導管というより細長い紡錘形が集まる固まった細胞組織です。
紡錘形の先端は、周縁部と絡み固着するフック状になって繋がり、外力を受けとめる筋組織を形成_黒檀のようにタンニン色素が分泌されるのとは違い、繊維細胞体が黒く重なり、連続肥大しています。
 ブナ科の樹木は、樹皮中ほどから芯材部に向い成長する放射組織があり、水平横方向の筋斑目が出来ます。縦の繊維だけで無く、外側から斜めに突き差すような補強生長する向芯組織に目をみはりました。この檳榔では、斜めくい打ちみたいに長く、縦繊維を貫通し、太い補強筋違い組織が後から鋭角に入る_風圧で押される力は、反対方向からもかかるので耐久強度は増大します。巧みな生命維持の構造パターンです。

粗蜜な材質でも斜め筋結束効果で曲げ捩れ耐力は強靱なものに

風雨や自重で折れず、倒れないようにブレースを入れ構造補強を造り出していることが明らかになりました。樹木はボンヤリ立っているわけではなく、揺らぎつつダイナミックな存立の仕組みや内機能を知ることが出来ます。
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都内の南米物産展で見かけて購入した今まで見たことの無い木材です。この木の手斧は、れっきとした実用切断道具。
斧に使う切断ぶっ切りできるほどの硬質素材。枝や骨付き肉を切断、原生自然生活では、武器・刃物、調理道具としてつかわれてきたと推測。
「柔らかく・手触りがよい」から「硬く重い、金属のように武器・鋭利刃物にもなる」これは、全く反対の材質イメージですが、常識をこえる特別異質なサンプル。産出地も生態も樹皮・葉型もわかりませんが、この地上に存在。細胞が大きく成長スピードが早い様子、鱗斷面は進化前のシーラカンスのように古生代の姿をとどめているのかとも考えます。
熱帯地域樹* ビンロウ・檳榔  (Betel Palm 学名:Areca catechu  L. ヤシ科)現地伐採現場で確認できると不思議な成長肥大の仕組みが判ると思います。
材組織そのものは、外周部が緻密で硬く、芯央・髄は粗質で用材にはならないという国内の記録資料があります。 ( 辺材部分外殻が緻密で構造強度・剛性を保ち、空木のように芯央がスカスカの構造というイメージ)

資料:「檳榔」ビンロウ 具木名

具木名 108樹種名「新撰類聚往来 中巻」 丹峯和尚 作 慶安元年 1648  敦賀屋休兵衛板/ 京都 室町時代中期

「ビンロージ」

「小笠原島産出材、径 7ー8寸、外周部厚一寸 髄ハ用ニ耐堪エズ」 木材ノ工藝的利用  明治45年山林局発行

「びんらうし」

江戸初期 – 中期の工芸技術実物見本「百工比照」(加賀前田綱紀蒐集)木之類 第一重 に「びんらうし板目・正目」の見本板があり、木口切断面ではなく繊維細胞が太くは見えませんが同じ材のようです。
当時既に、珍しい唐木材に混じり輸入されて使われたことが判りました。木目と板目は、特長の識別に使いますが、木口切断面は、サンプル材でも隠れがちです。また、木口だけでは分類識別も難しい。20151215  古事記には「檳榔」と記述があります。20180306 追記

「びんらうし」「ビロウ」は神聖視されてきた古代からの貴重樹

「檳榔木画箱」の資料:正倉院蔵 檜下地に檳榔・紫檀・黄楊・桑の単板が菱形に寄木練り付け
ビンロウは、蒲葵(ほき)のことで和名は あぢまさ・ビロウ、沖縄ではクバという。ヤシ科。神の聖所である「御嶽うたき」の神木  イザイホウ神婚、さらに奈良時代の天皇即位御祓にも現れる。独特の木理は、別格で霊力を感じさせる素材。仮屋・祭具にもつかわれる聖樹で蛇と菱形紋について記載 s: 蒲葵の話 正倉院「檳榔木画箱」によせて 吉野 裕子 朝日新聞1979年12月18日夕刊
木口面を使う細工は、硬い組織と周りの柔い繊維がバラケてしまい刃がたたないため、線状紋が現れる斜め切りの薄板化粧材を天平時代以前から神域で使っていたのでした。現在のハイス刃・チップソーの切削で木口の粒斑極太繊維がはっきり現れ、市場町場にはでたことがない見たことも無い木目材質に出会いました。歴史・産出地もわかりましたので、宗教祭事に関わる聖なる樹体の内科的アプローチをはじめます。道理で聖木に国内で出会うことがないわけです。20160104 追記

 

*購入時は、柄と斧の接合部(相欠き)は1ヶ所釘打ちしてあり、割れています。実際の木刃と柄のつなぎは蔓で縛り固める。刃部切削跡には、鋭利な鉈目が残る。207 x 280 x 28 mm   478g   山刀・鉈作り
*ARVORES BTASILIEIRAS  1992   EDITORA PLANTARUM LTDA , AVENIDA  ブラジル樹木総集本352種には掲載なし。

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木の総合学研究 2015-2023 「木の道具」「世界の珍樹種 – 木界・木録」「筋違い木理構造」「Hard Wood – Insight」

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