國政流相伝−5. 合わせ下端定規 表に見せないジョイント機巧「送り蟻 – 続」+雇い蟻駒 木工ジョイントの研究-24.
表に出ない「送り蟻」は、化粧と変形を抑え締め付ける機能を一体化させたシンプルな外せるインターロックジョイント機構
定規は安易に買う物ではなく、身近の寝かせた良質な材料で狂わない、使い勝手のよいものを自作するのが木工プロの基本。
使用頻度の高い鉋下端定規には、檜目詰み柾目の良材を使い、密着度が高く、狂いが少ない合わせ面の変形が起きにくい構造を選びます。先に、雲州型(樫)と有明型建具系(檜)を掲載しましたが、國政流では合わせボディに檜材、定規両木端に堅木を練り付け面取り。直定規部分は、堅牢で素性のよい堅木で挟み、中央部は狂いの極めて少ない針葉樹軟材柾目を組合わせ。「送り蟻」で締め付け合わせるこの構造は、ダボに比べると狂いにくく安定度は高い。ダボ(駄枘・太枘)は引きはがしで抉り、ピッタリ締まらず損耗によるガタがでる。
「蟻」と引き穴部分は、締まり具合をみてそれぞれ僅かな「チリ」をとり、鎬・鏝鑿で調節。 下穴締まり部分は柔らかく狂いにくい針葉樹の檜糸柾。スライドして締めつける蟻型は欠けやすいので、粘り気のある堅木柾材を蟻に成形して埋めます(幅四分)。固く締まっても外し易くするため、木口面に3mm程度余長の指掛かりを残し、通直面は長台鉋(摺り台)で仕上げる。締まり具合の感触で、仕事場や材料の湿気を感知できます。
本人のスキルが顕れ、スタイリッシュな道具かもしれません。下端定規を現場でみることもなく、絶滅種かと思いきやまだ生き延びています。「蟻」「ちりとり」生涯 寄せたり引いたり。日本独自の木の道具は、最早メルヘンの世界ですが、光でセンシングする大したアイデア。外国では手鉋とともに、目をひんむくユニークな超精密直線ゲージなのです。
鉋下端にあて翳すと、僅かなレベルの歪みを見取ります。はっきり見えるように、明るい方向へ自然に動かしますが、正面より左上30度〜60度からの光を最も敏感に感知するようです。
現代の寄せ蟻
テーブル甲板の「寄せ蟻用駒」Hard Maple 制作:楓林舎 横山浩司 1992
優れた手仕事の見えない重要パーツです。脚に「雇い」で埋め込み接着しますので「呼子」に対して嗣ぎ子「接子」です。基材に対して動く方向で「引き」「寄せ」「送り」名称はかわりますが、いずれも同じズラシの意味のテーパー締付けインターロック可逆構造。天板・框・帆立・柱との緊結に使うと無垢材の収縮膨張を下穴の逃げで吸収し、反り変形を抑制する有効な技法。
首元に僅かな糊溜まりを刻む。「契り」同様に、蟻型の呼子は棹形でつくりおきし、必要時に羊羹切り。ハードウエアー不要、ソリッド材に無理のない丁寧な仕事になります。
柏木工房 柏木 圭 テーブル甲板蟻駒ジョイント仕込み
吸い付き蟻では、甲板切り欠きが長く下端に露出します。この「雇い駒」ならばソリッド厚板の動きを下穴余長で吸収できるので無理が無い。柏木工房では、作り置きしてビスポークプレゼン用に雛形を用意し、制作時の嵌合当たりに。横山親方筋の仕事は確実に拡がっています。AQ20160225 – 0320
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木の総合学研究 2016 – 2019 「送り蟻」「下端定規の合わせ締まり構造ジョイント」「寄せ蟻つぎ子」「雇い蟻駒」