「木」の道具・工具工具・刃物木工

「 かんな通り」「長台鉋・摺台」「木矩」プロのあて板考 國政流の相伝-10

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

「あて板」を観れば、スキルやキャリアが判かる。「あて板」周りは職人の工房ミクロコスモス。

 墨付け、鋸、鉋、鑿、接着、彫刻、研磨、細工・組立て仕上げまで、全ての作業を繰り広げるマルチ機能を果たす切り削り台ワークトップ。定盤としての平面、あて止め木だけが装着されていますが、基本の作業性は極めて合理的に工夫されています。江戸指物仕事では、金属の定規・工具を使うと加工材に傷がつくので、型板・定規類は全て木製が原則。あて板に注目するひとは間違いなく玄人プロフェショナル。

基本的に床座姿勢で手足を使い、精密な細工をするため、道具刃物を周辺に置けるのでリーチが素速く、高度で多様な手仕事を可能にするオールラウンド機能を発揮板します。

■「みだりにあて板を削り直すな」工賃手間を下げる …. 伝承戒めから

① あて板が綺麗ではベテランに見えない。

② あて板を手直ししていると仕事が下手とみられ、人前ではやらない。

③ 材質は良材の本桜がベスト。良い仕事をするには、削り直すような板材では狂ってくる。

素性の良い本桜厚板は、狂いが少なく表面が緻密で穏やか。衝撃吸収、傷の復元性、適度の硬さと自重があり,打音も心地良く、感触も疲れにくい。

■あて板の仕様

・あて板は、巾一尺五寸、長さ三尺の板が削れればよい。(指物の最大部材寸法程度)余り大きいと使いにくく、作業性が落ちる。(建具・桐箪笥職は、あて板寸法が長く、立ち削り台も併用。)

・アテ止め:巾五分 溝三分 あて板の7 : 3 狭いあて板の場合は、二寸~一寸五分

右アテ止め木は、あて板元から2寸から一寸七分程度の前出、鋸作業が多く痛む。損耗交換の頻度が高いので、溝掘り込みは蟻にしていない。

アテ木口部は、墨付け、ケガキ(罫引き)、鋸挽込み、鑿攫い、目立ての縦使い固定に使う。

■大矩 木矩

精密に直角度を視る木矩で桜柾材製(縦横使い定規)金属製は、木部や刃物を傷つけてしまう。

■「カンナ通り」と「長アテ」

「長台鉋通り」

 アテ止め木の間隔、空き中央部分は、摺り台鉋の動きとあて板上で加工材の位置調整・クリアランスに重要な役割を果たします。あて板上で木口台・留め台・合掌台のほか、矧ぎ嵌合面を精密に削る「長アテ」治具を併用します。

*「摺台」は、削る板寸により「長あて」の位置が変わる。

写真は、鉋通り幅とアテ止めの位置を示すため、実際の鉋尻は止め木の前方へずらした位置になります。

「長台鉋」「摺台」鉋

 精度の高い材表面を削るため鉋刃を長い台に装着した特殊な手鉋。台が長いと平面精度が上がり材面を密着させ、木端矧ぎ面を精密に削ることができる。

指物・桐箪職の矧ぎ接合や建具・大工・造作舞台床板の摺り合わせ密着削り用の長い台鉋には、平面用普通の「長台」と側面木端削り専用の「摺台」の区別があります。「摺台」は、板材の側面を精密に削る専用鉋で、鉋刃の仕込み位置下端を厚くしたもの。長台は、江戸時代からある日本独自のLong Planeです。

大正期制作13代國政の摺台 明治後期・祖父伊藤吉之助の摺台

①二枚刃寸八八分勾配 銘國弘 大正14年浅草にて五十銭(現代¥30,000- 相当)割台自作・木表上端逆仕込み(1985年まで使用)

② 寸八・一枚刃 摺台 銘「鶴秀」白樫追柾摺台 下端五分、面取り巾三分五厘    刃口埋め

③ 寸八・二枚刃摺台 銘「富永」裏金(煙草庖丁)割台    摺下端七分 刃口埋め

「長台」は狂い易い

精密仕上げでは長台摺台を使ことが多く、下端調整のため台直しを頻繁にします。鉋刃は、切れが持続する刃を専用にするので研ぎ減りも速く、台が薄くなり、割れが入りやすくなります。普通の平台鉋に比べ、余長が長いので吸湿膨張変形が起き、下端は狂い易い。更には、優れた調子のよい鉋を使い続けるため、消耗が激しい鉋です。狂いが少ない目の通った割台が最上。

桐箪笥職は、幅矧ぎ作業が多く、鉋通りを広くとり、アテどめ(止め木)は狭くします。止め木は、木矩を使い直角度「矩」を出す。

右側アテ木は、鋸挽き作業が多くなり損耗が激しい。江戸指物の「あて板」台は 3尺のものが削れればよい。

あて板の木口は、鋸目立て、板材の鋸挽き込み、ハタ金締め、接着、墨付けに加工材を立て固定する使い方があり,矩(直角度)を観たり縦横使いの基準面ともなります。床置きですので、微少の細工から大型箱物・脚物組立てにも利便のよいオールマイティ作業台です。

*あて板と「木口台・留め台・合掌台の組み削り台」國政流相伝

 http://kurayuki.abeshoten.jp/blog/9888

あて板床座作業と洋式立ち作業の違い 「押し切り」と「挽き」「脚足が使える極め技」

ワークベンチでは、工程が変わるその都度クランプ作業が伴い、素速い連続作業の利点から、平座床面の作業性が圧倒的に優ります。必然的に鋸・鉋は引く構造となり、圧締・治具も逆になります。

 加工物を足先で固定し回転させる「足を使う」日本の伝統技能姿勢は、見事な即応性の身体機能を発揮しますが、下腿高が長くなった現代の若い後継者では、座り作業が難しい。戦後、急に脚がながくなり背が伸びたのです。

立ち姿勢に比べ、床面に削り屑や道具刃物が散らばり、工房仕事場が雑然とみえるのが難点ですが、見世物ではないので、見栄え撮影にはカメラ位置など配慮が必要です。建具、桐箪笥職の作業台アテ板は、寸法・構造が違います。

ⓒ2017 – 2019 , Kurayuki Abe

All Rights Reserved. No Business Uses.

複製・変形・模造・転載作り変え・画像転用・ロボット、Ai無用、業務利用を禁じます。

木の総合学研究 2017 – 2019 「あて板・鉋通り・長台・木の定規」「指物伝統木工技術」「木の切削学」「ATEITA  Japanese Woodworking Planing Surface Board」「Japanese Long Plane and Suridai 」

▼ お気軽に一言コメントをどうぞ

次の記事: