「木」と医療「木」の皮膚科木の内科薬用樹木

医薬・天然染料、黴・虫除け、工藝素材につかわれる有用樹木「キハダ内皮」|樹体内に強い抗菌性をもつメディカルツリーは森の優良ファーマシー Insight 木の内科 -32

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

厚い外皮コルク層で外気温・風雨衝撃を緩和し、内皮層で生成する苦味アルカロイド物質で害虫や菌類の侵入をはばみ、樹体が抗菌・抗体物質をつくりだす森の中のファースト薬剤師「黄檗キハダ」。

秋材年輪層を厚くして、構造強度も高めるトリプルガード。抗体色素が辺材白太の向芯逆放射組織を通過して染み込み、芯央部赤身は拡がり、木目に風圧によるバイヤスもかかりにくい。立木は成長が速く、倒れにくい樹幹となり、樹高を伸ばします。

動けない樹木の専守メヂカル防衛生存戦略は、外部からの害傷ダメージを抑え、樹体を守るシンプルな仕組みです。その耐抗力を人間は巧みに生存資源として利用してきました。芯央部からの外傷治癒の為の抗体移動は目立たず、周縁に色素の滲み沈着が診られます。幹内部が黄色の樹種は少なく、色自体がケミカル_アルカロイド成分なのです。玉切り切断面木口には内部状態が顕れ、色調と年輪の動きから、性質や成長履歴やダメージの進行状態も読み取ることができます。

キハダ 大径木・原木(88yrs.) の 玉切り・製材

①黄蘗大径木 径二尺上・6.4m の貴重木

秋田県産出原木 材積:1,534立方 / 元口700 x 600mm   末口530 x 520mm     6.4m L  樹齢:88yrs. 大径優良木  玉切り (2.1mL x 2 + 1,7mL)   元木株:500mmL    挽き材厚み:60 – 45 – 30  芯3寸  サンプル材厚板と樹皮付き耳残し。

木口材色は、酸化して濃茶色に変わっています。銘木クラスの稀少原木20071218 盛岡木材流通センター落札

元木一番玉

内皮成分は、化学成分アルカロイドのベルベリン・パルマチンが含まれ、ベルベリンには、ブドウ球菌、赤痢菌、コレラ菌に対する殺菌効果があり、黄色染料として古代から使われています。黄染布・紙を文書経文の保存につかうのは、虫害を防ぐ薬効を経験による民間伝承でした。

黄色の自然色材は時間が経つと酸化して濃色に変わり、落ち着いた色調は和風の素材として木工藝品・器具・建築材、造作・囲炉裏枠等に使われてきました。

二番玉

三番玉 枝下「烏」

内皮から水平方向に芯央へ入る向芯逆放射組織(髄線)

樹幹横からのクロス組織が材部を補強し、風圧・自重に耐える構造を造ります。芯央(赤身)へ入ると斑点状に変わります。他の広葉樹に比べ、外皮コルク層と内皮層が厚い。生木では、この向芯水平髄線は、微細でコントラストが低く、鮮明ではありません。

抗体色素の浸透・セルフキュアー

黄色材色のニガキとの違いは、芯央に蓄積した抗体色素を害傷ダメージに対応して移動するのではなく、外皮から芯央まで全体に抗体・耐性を備え防御する仕組み。色素変動、細胞レベルの挙動、腐蝕抗菌作用に注目して経時変化をとらえます。

伐採後、芯材部からダメージ部へセルフキュアー・色素移動がおきた原木。

②キハダ 原木元木 20071115 岩手県盛岡市/製材20011210A BE

芯央部からの外傷治癒の為の抗体移動は目立たず、周縁部に色素の滲み沈着が診られます。

専守防衛生存戦略 樹種による違い

動けない樹木の防衛生存戦略は、外部からの害傷ダメージを抑え樹体を守る高度な仕組みをもっています。攻撃ではなく、抗体を造り患部を包み込むか、もしくは虫や害菌寄り付かせない忌避成分で押し返す。その耐抗能力を人間は巧みに生存資源として利用してきました。

黄色材色のニガキとの違いは、芯央に蓄積した抗体色素を害傷ダメージに対応して移動するのではなく、外皮から芯央まで全体に抗体・耐性を備え防御する仕組み。色素変動、細胞レベルの挙動、腐蝕耐候性や抗菌作用を注視して経時変化をみると、樹種による特徴があります。

自然乾燥 9年  木喰い虫・菌類への耐性、変色・ヤケ(防虫・抗菌性の確認)

接地面の針葉樹合板と一部分表面に白癬菌が付着 内部への侵入はみられない

表面プレーナー切削面 内部の変色はなく綺麗なままの材質   原木①

製材後の自然乾燥で、黴の寄りつきや虫喰いがどうなるか。木口カット面に柿渋と割れ止め剤を塗布して湿気のある小屋床の湿気のある林場に放置。変色や腐蝕の進行をみました。内部への侵入はなく防虫抗菌性が強い。劣化は遅く、湿気のあるところにも使えるサニタリーウッド_玄関の入隅に置くと蟻・雑菌を止める効果があります。

内皮鮮黄色素の樹体内への拡がり・材質の特徴

成長は順当で内部に欠点を抱えにくい。肥大ボリュームのわりに軽く、しっかりした安定した質感。芯央濃色部が張り、辺材白太の成長巾は狭いくクリーンな鮮黄色の明確なコントラストがつきます。木目は、年輪がはっきりでて目立ちます。

 天然の薬理成分は樹体の内皮でつくられ、向芯逆放射細胞(髄線)から拡がります。微細で目立たず、白太辺材部の短い層に不連続で顕れ、年輪肥大とともに細い斑点状に分散し取り込まれています。この髄線のはっきり見えないほど細いという特徴は、水平耐力はあまり必要ではない、秋材年輪で強化されて木目がはっきりでる構造という特徴が読み取れる。立木が所在する地形は、水気のある土壌で陽があたる谷筋斜面を好み、風圧があまりかからない環境です。

 

枝折れ枯れ死木の内部 

樹幹折れ枯れ木の芯央部生命活動、水揚げ キハダ原木③ 雌牡・樹齢 50yrs.  20140925

樹芯(赤身)の拡がりと変色  水分はあがり、元木株の生命活動は続いています。

幹樹皮と樹景・実

  

キハダ  雌樹  新潟県守門村須原 目黒邸樹木園 20091018ABE

立木枝切り 内皮層・白太辺材・芯央(赤身)

 

若木樹肌・葉

 

黄色色素の薬理作用・用途

 古代から、鮮黄色素は天然染料として使われてきました。虫黴びを防ぐ作用があります。この黄色染め織りは、法衣、儀礼の高貴な物として扱われてきました。

国内では、黄蘗樹皮を剥ぎ内皮を自然乾燥して胃腸薬や湿布貼り薬、洗眼剤原材料として医薬品メーカーに供給する山村の換金産物でしたが、近年では自然林がなくなり、中国産にかわりました。

植物由来の有機自然材料・薬物は、無理が無く穏やかな効能が特徴です。生体への負担や副作用が少ないので貴重な素材となりました。

キハダ厚板 自然乾燥の様子

シーズンニング 10~ 18年間  桟木積み  清浄な高地自然林縁でストック

反り変形を最小限のおさえるため、木口割れ止め(一部柿渋地塗)。木裏木表には、タスキがけ割れ止め塗布。抗菌・耐性の確認と材質にストレスを与えないマテリアルトリートメントです。(9年間で気乾含水率 15 – 22 %   20171013 )

キハダ大径木 銘材

キハダ材の用途

 欅や桑材の雰囲気や材質感が似ているので、江戸時代から指物家具等に使われていました。やや軟質で年輪木目がはっきり顕れ、落ち着いた色調の木目。材色は、生材芯材では緑系黄色を帯び、次第に濃色にかわります。渋い和風のイメージをもつ材質感が特徴的な和家具の代表的な主材です。湿気に耐性があり、土台まわりにもつかわれる。

自然木のソリッド材は、削り直せば新品同様ですし、再利用、分解出来ます。最後には燃料となり、灰まで有効利用できるので化学工業合成物にくらべゴミになりにくいのです。さらには、「工業医薬品は体内に蓄積しますが、天然薬物は余分なものを排出してしまう」と地元漢方薬局の説明です。

「キハダ・黄蘗」の呼び名・樹木放言

シコロ(東北・北海道)、オウバクなど地方によりいろいろ呼び名がちいますが、黄色色素や苦みがあり、駆虫剤、お金になる木、谷地の模擬木、煎じ妙薬、樹皮剥し等の身近なイメージが読み取れる方言です。

おいへぎ、おーしき、おーつき、おーばく、おーばそ、おーばり、おーひき、おーへぎ、おひさ、おへぎ、かねき、かねのき、きがかわ、きはだ(東北)、きわら、こーちん、しけれべに(北海道)、しこ、しこの木、しこのへ、しころ、しころべ、しっこのき、しろっぺ、すーばく、すころ、すっこのき、だらすけ、たんば、にがき、ひこのき、ひころ、へぎ、ほーちん、メグスリノキ、みょうせん、やちくわ 等 (「日本樹木放言集成」 八坂書房刊 2001  )木の肌・黄肌 わかりやすいよいネーミングの和名です。

その他 資料

・「木の事典」平井信二 鎌倉書房 / 1979 – 1982  「木の大百科」朝倉書店 1996 ISBN 4 -254 – 47024 – x

・日本薬局方 第十七改正日本薬局方 生薬等 「オウバク」Phellodendron Bark PHELLODENDRI CORTEX 黄柏

本品はキハダPhellodendron amurense Ruprecht 又はPhellodendron chinense Schneider (Rutaceae)の周皮を除いた樹皮である.

本品は定量するとき,換算した生薬の乾燥物に対し,ベルベリン[ベルベリン塩化物(C20H18ClNO4:371.81)として]1.2%以上を含む。

キハダの用途、薬理等の物性は学術的にも明らかにされていますが、自然林の中でどのような生態なのか、バイオ・エコロジーの領域では未知の存在です。美観や造形的には、和風の趣がある自然再生循環できる重要な生物資源です。

人工植林で皆伐、樹皮は剥がされ囓られ、大木になる前に雑木扱いでチップ製紙材料となり、植生もどんどん消滅していきます。

史料

・キワダ 黄檗 「具木名」 新撰類聚往来 中巻

・黄檗 おうべき キハダ オウバク 和漢三才圖繪 巻第八十三 喬木類

既に重要な医薬用樹木として筆頭に記載されており、医療薬功を詳述し「加賀産が最良、和州吉野・奥州会津産出が続く」。消化吸収系内臓を回復し「清肺」機能があり、百病心腹を治し安魂、神通する」_当時、医者は「薬師」でした。 追記 2024/05/19 ABE

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