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夏のキハダ樹皮剥がし・薬用樹のフィールドワーク2019 |抗菌・抗体性生物マテリアル |メディカルウッドワーク イニシャティブ  Insight 木の内科-50

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

初めて人類が木を伐り、削り、木目を観たのが約一万年前。古代より継承されてきた薬用樹キハダ染料黄檗、夏の伐倒・樹皮剥がし臨場。稀少な大径木70 – 80年生 50㎝級と目詰み 35cmm 二本の択伐_玉切り・樹皮剥がし里山作業立ち合い。樹体内の生命維持リアクションに目を見張り、多くの知見を得てメディカルウッドワークスの新領域が拡がる。

 動けない立ち木自身が作り出す抗菌・防衛物質とは、どのような状態で現れるのか。キハダ原木伐採に立ち会うことができ、採取現場で鮮やかで目を見張る綺麗な瞬間を捉えました。身体記憶や手がついていない細かい記録、今まで気がつかないことやメディカルウッドの素性・適性などについて前稿に続き、まとめて行きます。

木の医薬・天然染料・工藝素材につかわれる有用樹木「キハダ」 樹体内に強い抗菌性をもつメディカルツリーは森の優良ファーマシー Insight 木の内科-32 http://kurayuki.abeshoten.jp/blog/19562

 6月下旬から一ヶ月あまり続いた櫟撲樕樹皮剥がしの里山作業に続き、キハダ大径木の伐採予定が入りました。この地方でも珍しい大径木で慎重な杉植林地の択伐。自然林をほとんど伐り尽くし、数十年は業務伐採も出来なくなりますから、キハダワークに密着する最後の機会となりそうです。

キハダ伐採、樹皮採取里山作業:2019年8月初旬

採取地:元四賀村横川にて by   内川林業(安曇野市 明科東川手木戸 ) 内川利喜夫 / 熊井勝夫・藤原 誠

■ミカン科キハダ |オウバク 黄柏鮮黄色は「ベルベリン」「パルマチン」アルカロイドの強い薬成分 | 第十七改正日本薬局方(JP17) Phellodendron Bar PHELLODENDRI CORTEX 生薬等の原材料

A. 80yrs.  径35cm  日陰急斜面・目詰み 杉植林内

 林地斜面で玉切り後、即座に外皮(周皮)をハンマーで軽く打ち、周皮は ハンマー(900g)で軽く打つと、ぽろり剥がれ、見事な黄肌が現れます。中皮は厚く軟らかい重層繊維質、クリーンな鮮黄色です。パックリ連続して剥がすことができ、内皮は薄膜状で樹液に濡れて中皮と木肌表面に付着。旺盛に黄色ケミカル物質をつくり出している時期です。お盆を過ぎると樹皮はもう剥がせません。

 息を呑む美しくピュアーで鮮明な色合い。内皮は、爪でしごける繊維質ゼリー状の薄膜ベットリ。林内では、蛍光色の輝きを放ちます。舐めると苦みの中に糖分を感じる。中皮は維質で厚く、黄肌色は照り輝くフレッシュイエロー。瞳孔がひらき、舐めると胃腸は落ち着き、気分はすぐれ、たちまち元気になります。

B. 70yrs.  径50cm  南斜面肩・優育立樹 杉林燐地

生薬とする黄色繊維組織は、林内から搬出する夕方には少し酸化して褐色を帯びます。晩には、薬剤加工メーカーが集荷を引き取り。洗浄して天日乾燥後、粉末加工・加熱・練り整形などを経て商品化されますが、製法は企業秘密のようです。市販薬例:大師陀羅尼助・百草丸 etc.

 因みに、キハダの既知の薬効は ①健胃・整腸 止瀉薬 ②洗眼薬 ③打撲外用ハップ剤 ④虫除け黄色保存機能性染料(上古の高僧貴族衣料、古文書保存・美術品包み・料紙)⑤糠味噌漬けもの 黴・虫除けなど(生乾刻み) 合成化学医薬に代わり、自生地は荒廃し、採取する季節労働者はいなくなり、自然生薬はめっきり少なくなりました。キハダ材は、杢目美質を賞揚し和風家具材として多く使われた時代があり、現在では木材市場流通も少なく、プロでも経験しない材料となりました。抗菌性・衛生効果があり、素材力が評価されるのは、これから。

多湿酷暑シーズンの医療・衛生ケアーに間に合う絶妙なタイミング

樹皮剥がしには打ち叩きますが、その剥がした樹皮は、打撲の治療薬になるという不思議さ。梅雨時、湿気が多くなり、バイ菌が増え、食材が傷み易い。体調が弱まる暑さに向かう季節に健胃・抗菌作用がとどく、絶妙なタイミング。季節の有り難い賜物です。薬理成分は、ベルベリン・アルカロイドで動物の生理反応を引き起こすもの_健康を維持出来る自然の山産物は、さらにメディカルマテリアルとして重要な役割りを見出すことになります。

内皮が剥がれない季節に伐られたものは、外皮を削り、天日影干しにしてかけらも集め、有効利用しています。

原皮の供給・産業スタイル・市場価格

 医薬、染料に使われるメディカルウッドの代表格「キハダ黄檗」は貴重な換金資源樹ですので、木材市場に並ぶものとは産業用途・業種がことなり、一般にはあまり知られていない医薬原料流通です。

国産キハダは産出が激減し輸入ものが大半。現在は取り扱い加工メーカーは数社あり、原体は直接渡し。加工薬剤メーカーの人々は、白衣を着ています。杣材木業は、土場重機作業衣ですから、雰囲気は別世界。医療の世界は、ハイインテリジェンスで洗練されていますが、原皮買い取り価格は、人工・燃料車両経費ていど。製品薬に比べると、さほど高いものではないのです。里山の仕事は消えつつ、汗だくでお金の匂いはしないまま。

食材の発酵を護る抗菌材

 梅雨時から夏にかけて黴・バイ菌シーズンに胃腸を護り、食材保存にも抗菌、虫除け作用はかなり強いという実感があります。糠味噌床に添えると虫が湧かない。発酵の世界にも役立ちます。

防虫効果のある染料

奈良時代にはキハダ内皮成分に防虫効果があり、織り物や貴重だった和紙の染料として使われています。黄蘗鮮黄色は、高貴な色として高位の人が所要するものでした。

現在でもウコン染め生地と同様に、保存箱内の防虫処理や草木染め、防虫用途として重要なものです。削り小片を玄関土間に置いておくと、蟻や小さな虫がこなくなりました。無臭のオーガニック成分で、小さな切れ端も役立ちます。

樹皮の構造とメディカルウッドとしての有用性

 水揚げ肥大成長期の伐採でわかる樹液薬理成分は芯央から樹皮まで樹体全体に広がります。外皮(周皮)から中皮へ向芯逆放射髄線が伸び、形成層が肥大成長する細胞列がはっきり。

キハダ薬理成分ベルベリンは、鮮黄濃色の内皮から分泌し、肥大とともに中皮繊維体へ吸収して蓄積される周皮・中皮・内皮の三層レイヤー。内皮は、薄い軟質黄膜状で木肌表面に付着。形成層・白太辺材部は色素が浸潤して淡黄蛍光色が輝きます。発光しているような印象でした。

芯央は年輪層に蓄積されて濃褐色、導管に定固着し、全体に黄色の色素が回る全体が抗菌性を保持。白太辺材混じりで使えば、メディカルウッドとしての有用度が高まります。

キハダの植生・実生

 キハダの天然木は、群生しないで水気のある緩斜面に立ちます。実を鳥が食べて運んでいかないと実生ではえないという杣人の常識も耳にしますが、昨年秋、小谷村の植林キハダ生産組合農業委員を訪ねると「そんなことはない、普通に発芽するので苗木は殖やせる。」とのこと。山中では少なくなり、ぽつんと離れて立っていることから、鳥胃袋運搬発芽説になったようです。

メディカルウッドの適性について(イメージ)

① 人体によい影響を与え、好ましい性質

 休息・眠りを深め、回復を早める。ダメージを緩和し緊張や疲れを軽減する。健康状態へ安定させ、居心地がよい寛げる塲を造れる。修援力や耐候、遮蔽作用がある。恒常性があり、バックアップするような活きた材料を身近に使いたい。

② 抗菌性、薬理作用を利用できる樹種。 調湿・保温、電磁遮蔽・ノイズリダクション、ソリッド木材率を高め、室内環境調整装置となる。同時に、適度の音響性能、芳香が備わるものが望ましい。

③ ナチュラルシーズニング、マテリアルトリートメント、木守りにより熟成材となり、本来、素材に備わる生命力を活かすことになります。

④ パーフェクトトレーサビリティ 伐採、製材、自然乾燥、マテリアルケアー、加工まで一連の仕事を人任せにしない。手間暇を厭わず、無理異質な扱いや阻害するものを引き寄せない、自律整序を原則とします。厳しい自然環境の中で生き抜いてきた姿を尊重する考え方です。

森のファーマシーを住まいの虫・黴び除け、医療効果のある環境維持装置として活かす

 湿り気の多い斜面に生育し材は水湿に強く、水廻りにも使える性質が抗菌性由来と合致しますからファーニシング用には、最適なメディカルマテリルとして使うことができます。外気や太陽光に曝されても材色の劣化変色はほとんどなく、耐候性があり、比較的軽い材質はしっかりして崩れにくい。

皮剥ぎ後の玉切り原木の始末

 水揚げ中の伐採で樹液水分は多く含み、生身で衝撃ダメージを受けています。樹液の酸化変色がおきますので、材質は不安定で木工には使えません。剥がしやすい玉切り短尺サイズは、板材には無理、薪燃料となります。純木灰は、藍染・陶芸釉薬につなぎます。

自然林縁でのナチュラルシーズニング 厚板桟木積み・熟成 2007  – 2019

 自然乾燥12年、平衡含水率は約12%まで下がりました。晴天率が国内で高い地域で通風がよく、困虫ゲストも多い。 (20190810現在)

 材色は安定しており、白太辺材の導管には黄色素が詰まっています。紫外線によるヤケ、フケ劣化はみえません。稀少な大径木優良材、トレーサビリティーは完璧。伐期は11月初旬、ダメージは無く、メディカルWの適性は秀逸です。想定している用途は、療養施設、寝室、冷暗所、キッチン水廻り、収蔵スペースなど。湿気に強く、絵画アート作品のコンサベーション・保存ケースなど、抗菌性を蓄える樹性がクリーンで上質の仕事を拡げます。

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木の総合学研究 2019 「キハダ天然樹皮の生薬伝統採取」「キハダメディカル化学成分とメディカルウッドの適性」「ナチュラルシーズニングによる熟成素材クオリティウッド」

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