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日本芳香木の代表格「ネズミサシ」「室ムロの木」「天木香樹」|動きの速い専守抗菌ガード、治癒リアクション|鋭い針葉はネズミ刺し鹿除け 耐水保存性に優れた香薬メディカルツリー |陽当たり痩せ地に適応し生命力・防衛機能を高めたヒノキ属進化樹|万葉木香論 Insight 木の内科 -52

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

白檀の代用にされた芳香ネイティブヒノキ科の進化樹。トップノートは、ヒバの香り、次いでヒノキに替わり、イブキ(柏槇)ほど強くはない。

 時間が経つとノーブルな甘い香気に変わる。ヒノキ香を上品にした鼻孔をぬける、前頭部が軽くなり弛緩するような香気です。集中し思考力を高める精香は、「メディカルウッド」に相応しい。

「ヒノキ科ネズミサシ属」知られていない 香り立つ「和白檀」 鋭く針刺す痛い「針葉樹」の典型

荒れ地斜面、岩石上の陽あたりを好み、赤松林周縁に育つ低木。肥大成長はゆっくり緻密な年輪、林地では樹皮を観て育ちが悪いヒノキと観まちがう。荒れ・痩せ地のランドマーク。

 昔は重宝した「エコネズミ除け」ネーミングは俗的ですが、鋭い針先が特徴で、一度聞いたら耳に残る「針葉樹」の典型です。ヒノキ属の進化した形質を感じさせます。「針葉ヒノキ」と呼ばないのは、太くならず、構造材には無理な性質で用途が限られていたため。

ネズミサシの主な特徴は、
①切断するとかぐわしい、ノーブルな香気放散(別名:和白檀)
②皮膚に突き刺さる鋭い針葉 、先端を硬質化し害傷を防衛
③ラジカルな抗菌・抗体出動、著しいセルフキュア
④脂分を多く含み、ヒノキ樹皮に近い。
⑤肥大成長はゆっくり、年輪は目詰まり。里山では大径木には成らない。
⑥材質は緻密で繊細、刃物アタリはよい。
⑦荒れ地や陽当たりの良い急斜面上で根張り 赤松林に近縁、実生・雌雄異株。
⑧鼠刺す俗称学名はダントツユニーク。別名:室の木・ネズ・杜松など

外観は、育ちの悪いヒノキ・サワラと間違われます。針葉で識別。 果実はジンの原料、薬用酒の材料、入浴剤にもなります。長野県諏訪地方では、細径目詰みで丈夫で軽く、粘りがあるので御柱祭りの梃子棒に使われています。

A. ネズミサシ打撲樹(40年生・里山赤松林縁南斜面上)2019年梅雨期

6/21 伐採3日後の末口と元口  伐り口では、樹体の変化が鮮明に出ない。 内側では緊急治癒出動の芯央色素の突出、年輪層細胞壁をスルー、辺材部・樹皮へ向かう修復の動きが活発。臨死パニック反応。木だってビックリ、激痛です。

伐採後11日 芯央からの辺材へ色素移動が拡がる   元口径 110mm

枝元・入節にある養分・抗体の吸収_年輪冬目への取り込み_給配調節バルブ細胞

 

■関連コンテンツ

「バルブ細胞」:http://kurayuki.abeshoten.jp/blog/29768 

「香木類ヒノキ・針葉樹の木理年輪・材色・抗体・木香の分泌をつきとめる|養分には抗菌力_抗体が含まれ、枝節から取込み吸収して冬目年輪を造り出す|肥大成長・生命維持機能を支配する中枢はなく分散系統的制御|見えないことを、知らないものを明らかに  Insight 木の内科−76」

枝元・入節に点在する微小組織が、抗体・養分の吸収給配を調節することが明らかになりました。年輪肥大を支配する重要な生命維持活動部分です。(2022/09/12 追記)

芯央から連続的、重層に滲出し、芯部の色調は時間とともに淡くかすれ、40日後には樹皮断面から脂が出て損傷部のカバー。香気は強くなります。樹皮層は薄く、剥がれやすい。

伐採後60日 白太辺材にブルー黴付着、樹皮に白色腐蝕菌が現れる。梅雨時期伐採では痛みが速い。

B.鹿の樹皮喰い損傷ダメージ樹(40年生・里山赤松林縁_南斜面上)2019年梅雨期

芯央から突出する抗菌リアクション

損傷ダメージへの抗菌・抗体バリア

 同じ40年生、近隣樹でも樹皮を鹿に喰われ瀕死。損傷が大きいと樹体は外皮巻き込みカバーリング。黴菌の侵入耐抗バリアを造り、養分を回して太くなれない。

ムロ・ネズ・ヌズミサシ樹名方言

「日本樹木方言集成」では、90余り記載されており、

 ネズ、ムロ、いがまつ、ネズミサシ、ネズミバラ、はりまつ、ひむろ、もろた、もろと、もどら、もらら、もらんば 等、九州地方、四国、瀨戸内、近畿、地中部、東北地方まで拡がります。

「檉」「むろの木」「木之聖ナル者ナリ」栢ニ似テ香シ

「和漢三才圖會」 巻第八十二 香木類(寺島良安編纂_江戸後期正徳二年1712)

芳香があり、聖木として尊重されています。 水・湿気に耐え、材・薪に能い_当時はいたるところに生育していた身近な樹木でした。(記載補足 2022/09/14 )

40年生ネズミサシと櫟の肥大成長比較

梅雨期の「櫟」樹皮剥がし「撲樕採取作業」里山更新林伐採地

「万葉木香論」

万葉集や各国風土記に登場する有用樹、薬用・香る樹木には樟、朴、国木(櫟)、檜、杉、槙、栢、漆 etc.  沢山登場します。フルーツウッドや建築材、医薬、染料、工芸など、樹種の効用をまとめれると、既に自然素材の活用が巧みだったことが明らかになります。

香木は、樹脂色素や匂いが樹体の抗菌・抗体作用そのものですから、動けない立ち木の生命維持、防衛のエッセンス。器・葉包み、防カビ・防錆、衛生マテリアル、収納保存、薬用材としての様々な利用、生活上の効能を経験的に修得して伝えてきました。

香りは天然のケミカル物質ですから、黴生物・細菌類、昆虫除け、強いては人体への好ましい作用が明らかにされ、古代の暮らしの知惠が豊富だった様子も見えてきました。万葉上層の人物も樹木の一般的な樹木の性質を知識としてもち、詠み表してます。

■大伴旅人・万葉集巻三 446  天平二年 730

吾妹子之  見師鞆浦之  天木香樹者  常世有跡  見之人曽奈吉」

我妹子(ワギモコ)が 見し鞆(トモ)の浦の むろの木は 常世にあれど 見し人ぞなき

■大伴旅人・万葉集巻三 447

鞆浦之  礒之室木  将見毎  相見之妹者  将所忘八方 

鞆の浦の 礒のむろの木 見むごとに 相見し妹は 忘らえめやも

 ネズミサシは、穏やかな低香性。樹形も低く優美です。「天木香樹・磯の室木」と歌に詠まれるには、丸木舟造材や造営に使われた樟、檜・ヒバ・イブキ(ビャクシン)では、山深く大木で美形ではない。香りは強く、あまり上品なものではないので、ネズミサシが該当すると記述されます。「香樹」という材質を謳うのは、当時既に樹木の名称や性質が定まり、材料知識も豊富で木材を切り分け削る「鋸・斧」も発達していたことを裏付けます。かぐわしい細君だったという慈しむ暗喩も含む。

香りを知るという事は、当時の産物、嗜好や形象、生活文化、加工技術など、総合的な知見が引き出されるのではないかと考えます。脳は、香りに瞬時に感応します。鼻は死ぬまで閉じない。口より出ているので味覚より速く鮮烈です。DNA、免疫力にも響くと医療面で助かります。

ソリッド材の木香を機能性マテリアルとする「メディカルウッドワークス」

植林拡大で自然木は少なくなり、稀に市場へ出ることもありますが、用途もよく判らない。現在では、プロでも知らない樹種の一つです。

赤松の近隣に育ち、あまり目立たない低く細い樹体。細身で水に浸かっても腐らない性質を利用して鮎釣りタモ網の構造フレームに使います。(長野圏中信地区)木香には自然の薬理作用があり、メディカルウッドへの活用が見得てきました。因みに、美容効果があれば忽ちレッドデータツリー。痩せ荒れ地適応樹としても有望です。

備考:「ネズミサシ」の利用調査が文献に出たのは「木材ノ工藝的利用」 農商務省山林局編纂 1912 明治 45年  江戸期の本草学に記載され、研究紀要などで検索できますが、材質の詳細は不明。

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木の総合学研究 2019  「ヒノキ進化樹ネズミサシの木香分泌」「日本針葉樹香木類の里山植性」「香木ネズミサシの抗体分秘_治癒芯央の動き」「日本香木論のはじまり」

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