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オヒョウ楡 マザーツリー観察スポット-1. VIT探訪

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

自然林で出会うことが希なオヒョウニレの成木 VIT (Very Important Tree )。大きな母樹をみることができる「重要・稀少樹スポット」次世代若木も傍にありファミリーで域生、密かに野生の大きな木を訪ね行きます。

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樹幹 腹(山側)   元木 樹幹 背(谷側)

 台風歴史災害と白い雨・蛇抜け 全域唐松拡大造林施業の経緯

 台風8号が右折後、長野県を外れましたが、梅雨前線の異常雨量で南木曾土石流災害が起きました。「白い雨」のときは、蛇抜けと呼ぶ歴史的な沢崩れが度々あり、忘れた頃に起こります。この「梨子沢」地名は、「亡し」を意味している被災警告です。昔の地名には土地の成り立ち、後世へのメッセージが読み取れます。

 子供の頃経験した伊勢湾台風(1959年)では、名古屋周辺地域のほか全国が大変な被害を受け、当時、その復旧資材に長野県産唐松が多量に使われました。戦争後の薪炭林利用の後、林業木材業界は一時的に莫大な販売利益を得て経済が潤い、信州大学農学部林産研究や県林政部の山林政策が唐松造林に集中シフト、ここ東山部も拡大植林が奨励され、至るところで従来の広葉樹混交自然林を伐採し唐松を植え続けてきました。今、視界にはいるのは、見事な全山唐松の放置人工林。需要予測が外れ、災害用に唐松が使われないままです。林地崩壊が出始め、山を畑にすると後片づけは大変_プロフェッサー植木達人サン片付けまし。

唐松拡大造林が出来なかった急斜面・谷筋に生きのびる樹種

 拡大造林施業は、急傾斜地や崖、沢沿いには人手が入りませんでしたので、そこに残った樹種が50-60年で大きくなり種をつける母樹に。若木が育ちはじめて林内を整えつつあります。狭い場所ですが、自然生態系の回復・遷移を道路から観ることが出来る貴重ななスポットとして記載しました.

オヒョウに関する専門書・資料は少なく、母樹のまわりに若木・成木の一家が点在していますので、これからDNAなど内科研究に好適なサイトになります。

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オヒョウニレは、木の専門書でも写真や記事が少ない樹種です。道路から大きな成木と若木の自然林地を見ることができるベストスポット。アクセス至便。樹形が良く、葉形・枝ぶり、樹皮・背と腹の違い(引張り-圧縮)など特長がわかります。周囲の自然生態系環境で重要な樹種スポット VIT( Very Important Tree Spot ) として定時見物中。

・オヒョウ楡 推定樹齢70-80yrs. 樹高16m, 枝幅18m 胸高径:705      目通り径:680  枝下:約6m  樹勢:健良

GPS: ELEV 1,355  N:36°12’576″, E: 138°05 ‘453″ (樹高・枝幅は目測、GPS:携帯測定器Garmin )

 

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葉形と実房 (6月) 目があくと顔型、鬼頭です。葉頭の角が特長で見分けしやすい。
実はひらひら遠くへは飛ばず風任せ。今年の秋に拾います。
直ぐ近くに子供の家族がいます。若木は沢胡桃の樹皮に近似、人間が樹皮を剥がしてオヒョウ厚子(アッシ)織りの繊維をとります。

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若木a                            若木b

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大木を観れば伐る「キコルマインド」

大木は、都会では枝葉が邪魔にされ、どんどん伐られ、中山間部では、世代交代で家屋の建築工事や管理不能になり伐られています。大木良材情報をつかむと木材業者が直ぐに飛んできますので、研究観察を続けるには困りますが、私は実物をみてもらうことを優先し開示。出来れば、この大きなオヒョウニレが伐られる時、木目組織の様子や変化・内科観察できるときまで見守りたい。

市場売りの丸太原木でも「楡」としか判らず、まだ、材質実物サンプルがありません。正確には、春先の芽吹きから若葉、秋の落葉・冬芽・樹皮まで観ないと同定できないのです。また。幼木樹・若木・成木、老樹は、それぞれ外見が異なり、専門書でも総合的に見れるページはなく、研究者も木材業者も同業に荒らされてしまうので、生育地点や産出元を明かしません。

大木・稀少樹は経済的価値が高いので見つけると伐りたくてたまらなくなります。切らねば内部はわからず、製材しないと研究サンプルも出来ません。実種から老木まで観察して切り、灰にすれば木の全体が判りますが、人の寿命が足りません。立木は簡単には切れず、木の内科的研究は今まで無いのです。伐れば仕事になるけれどその木命はおしまい。実生DNAが同じでも個体差もあり、自然環境では同じ木はありません。木に執心する「キコルマインド」の一面です。

入山辺自然林皆伐後残存樹種の現況

水楢・コナラ、楢かしわ、鬼ぐるみ・沢ぐるみ、黄蘗、栗、サワシバ、小梨、真弓、山桜、カエデ類、水木、白樺、赤松、コメツガ、サワラ・桧、山桑、栃、朴、セン、シナ、柳、ヌルデなどの木が散見されます。ブナはみかけません。大木にはまだ時間がかかりますが一等林地を追われ、やっとこさ生き残っています。

推奨植林のドイツ唐桧は密植され、間伐率60%。鹿の角突きで樹皮が裂け、無残な姿で放置のまま。唐松の間伐が不在・不明所有で手がつけられない荒廃萌やし林に。鹿喰害も拡大し、枝打ち・間伐管理がともなう人工植樹は、人がついていないと無残な結果になりますので、ドイツの森林官のように地域に定住しないと管理ができません。一生涯責任を負うのです。

優秀な「森番」が樹を育て、自然環境を維持するキーマンの役務を果たす現場の仕組みが日本では着目されずに、ドイツ林学・施業モデルなどが明治時代に輸入されてきた流れはまだ続いています。進化の歴史では、針葉樹が先に現れ、やがて広葉樹が拡がり強く優勢となり針葉樹が被圧されて生息域が狭められていますが、人間の都合で林業は針葉樹を人工的に伸ばし、自然の推移を攪乱しているようにみえます。山の変容は、想像以上に速いのです。

この他、近くにはコメツガ・桂・モミ・水楢・楢柏などがあります。人工植林施業を免れて残っているツリースポットを巡る山歩きを楽しみつつ、木を学ぶ時間を増やします。

母樹の種・山採取職人に出会ったころ

 25年程前、晩秋の霧の日に一人の山仕事人に出合いました。尋ねると、2ー3年県有林内等から里の苗木農家に唐松や楢類の種を集めて納入し稼ぎにしていました。その後、行方が判らなくなり同行現場取材が出来ませんでしたが、トラックの荷台にはヤマブドウやフジツル、アケビがのっており、工芸土産細工材料に売るとのこと。あれから種取り職人を見かけません。最近、森林に入り込むのはクラフト用蔓や山菜木の芽・キノコ採りだけになりました。

「アキニレ」のVITツリースポット
中央高速自動車道下り線八ヶ岳SA ガーデン内に数本あり。 (樹皮を診るとだいぶ弱っていますが)

注:このオヒョウ楡自生林地は私有地ですが、市道から観ることができます。20150217  Photo. in winter 追補

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木の総合学研究 2014 – 2019- 2023 「マザーツリー・重要稀少ツリースポット」「樹木ウオッチング・木を学ぶ」「樹木踏査」

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