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いちゐ樫のスーパー捩れ強度_年輪層を貫通する髄線で固め堅く締まり、衝撃や応力を吸収する自然が造り出す傾斜材料| ICHII KASHI The exclusive and graded hardwood for the Japanese traditional oar、innumerously centripetal ray forced grain of high torsional property and shock absorption_Native KASHII family are used for watercraft,contrivances and many hand tools in Japan.|赤樫・本赤、白樫・アラ樫・青樫も堅く重く締まり、強い材質が和船・水車、機巧、あらゆる道具類に活躍してきました。ハンドツールジャパン-46 Insights 木の内科 -96

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

常緑広葉樹で材質が堅く重く、強靱で捩れに強い特異な堅木です。針葉樹イチイと芯央材色が似ているので判り易い名前で呼ばれます。樫は、主に材色や性質で識別し、使いわけてきました。

手に馴染む材質は、作業が疲れない安全な弾力機能性マテリアルとなります。日本の代表的な有用樹木の優れものです。

コンテンツ

① いちゐ樫の特異なゆらぎ材質について

② 樫の木の樹種

③ いちゐ樫 及び白樫・青樫の材料用途

④ アラ樫原木の樹皮と堅く締まる内部

⑤ 伊勢湾海岸の木造船建造現場記録

⑥「うばめ樫」について

⑦ 関連コンテンツ

実際につかわれる木取り材から、材質の細部と特長を明らかにします。

 ❶ いちゐ樫の特異なゆらぎ材質について

  二方柾(平柾)木取り材_肥大成長が緻密で幅が順次ひろがる傾斜組織となり、応力に耐える合理的な組織_ゆらぎながら配列する積層で、さらに間隔をあけて髄線の水平筋が入り込みます。

揺れ捩れを受けとめる髄線(向芯逆放射)が太く、広い間隔で入り,壁間には柔細胞がビッシリつまるので重く、多数の細長い樫目が走ります。

堅く強靱な捩れ強度が生まれる内部組織ですが、柾目が板目状で、板目が柾目的な性格を帯びています。

入節

樫目髄線_木表側板目

髄線_木表

紡錘形の樫目は、板目に現れ、柾目には、芯材へ入り込む斜めの髄線組織がくねり、拡がる樫目が並びます。

この樫目の形状が幅が細く長いものは粘りがあり良材とされ、肥大して紡錘形で丸っこいものは、材質が劣る傾向があります。(白樫・赤樫の鉋台入れ専門職 靑山鉋店青山駿一談 1984年)

板目木裏_芯央

繊維束・柔細胞を貫通して強靱な倒れない木理を造りだす高樹齢大径木

 

いちい樫 艪の木取り材

 長期自然乾燥で締まり、比重は、1.09 ~0.9 ほど。水中に沈めると浮力のバランスがよく動きます。艪専用の樫材は、水に浸かっても100年は丈夫です。(1987年8月  伊勢神社港 艪櫂ロカイ職 山羽幸平氏を訪ねる。 屋号「丸山商店」二代目)

仕事途中の木取り材なのですが、入節があり使えないのでサンプル材にいただきました。角材は、堅く重く(7.5kg _1,5m)倒れたり、ぶつかると危ないのでヒヤヒヤ_帰路は電車で持ち帰るのもしんどいボリュームです。

 和舟を漕ぐ艪ロに使われた「ろ樫」は、その切削する際の刃物アタリや木味や伝統技法の材料の選別や木取り技術は、現場でサンプルや手仕事をつぶさに収録することがむずかしい。

ウロウロすると職人の仕事場で邪魔になるからだけでなく、修業して身体記憶で働く専門職人に経験的な詳しい解説を頼むほうが迷惑。仕事を依頼して、造りながら語ってもらうのが順当です。チョイの間に外来取材する側のレベルが問われかねません。最近は、どうでしょうか?

❷ 樫の木の樹種

 かたい材質「カタシ」から転訛したもので、異名・樹木方言があります。赤樫・本赤、白樫・青樫・アラ樫の実物サンプルから、材質と特長などを把握することができました。学名ではなく色や材感の呼称です。

赤樫・本赤樫材

「赤樫」は、個体差が大きく、材色の濃淡があります。

 「本赤ホンアカ」真っ赤な血色が芯央には入り、20年の長い自然乾燥、寝かせを経て使われています。緻密で滑らかな材質は、糸の繊維が引っかからない織り物の杼や狂いが少ない鉋平台になりました。

 赤樫は、自然乾燥で養生し20年は寝かせて使われます。乾燥により材密度が締まり、じっくり熟成していきます。良質の本赤樫材は、緻密で粘りがあり、適度に重く、織物の杼や鉋台に最適な工具材料でした。

木材業界では、芯央に赤褐色が入るものを赤樫に仕分けしています。材色の濃淡があり、生育地の違いや個体差で扱いが別れます。

赤樫の大径原木の伐採現場や土場、製材・切削をみる機会は稀ですが、九州地方では、藩政時代から槍材などに有用樹として扱われ、植林が行われました。鹿児島・熊本・宮崎 県などで赤樫が木材市場に出回ることがあります。九州の大工職は、赤樫の鉋台を好みました。(靑山鉋店青山駿一談 1994年)

白樫材

「白樫」は、関西・山陰地方のものと中部・関東地方の産出材では、それぞれ材質感の差異があります。油気や木味、粘り靱性など性質が違う印象です。

日本の木工具_鉋・毛引き・柄 及び打ち楔・杵・水車軸・杼は、樫材に依存しています。

❸ いちゐ樫 及び白樫・青樫の材料用途

 堅く重く、乾燥すると材質が締まり、捩れ強度がずば抜けていて、水につかっても腐らない和船の艪に、このイチイ樫が使われてきました。曲がらない16尺以上のいちゐ樫材は、櫓樫とよばれた重用材です。

白樫材は、枝下10尺以上あれば素性がよく、特上質材です。棒屋は、農具・土木、鳶・大工左官道具の柄据えに白樫を多く使いました。握り易く、粘り(靱性)があり、衝撃振動を吸収して疲れないのです。鉋刃を白樫台押さえ溝に挿入すると、刃身をきつく締めつけ、咥えるので緩みません。

「青樫」は、樹幹外皮の色から木樵の命名、学術的には葉の形から「ツクバネ樫」という分類があります。白樫と同じ用途ですが、関連コンテンツ別稿に記載しています。

「落葉樫類」という分類(葉樹材利用調査書第二輯 東京營林局 昭和五年発行)では、「おほなら・こなら・ならがしは・かしは・くぬぎ・あべまき」ぶな科を充てています。樫属ではないのですが、堅い木という市場流通の名称でした。

「木材之工藝的利用」(農商務省山林局発行_明治45年)では、「あかがし、いちゐかし、うばめかし、しらかし」に分類されています。「カシノキ」は諸々に使われてので、江戸時代から「櫧」の字が使われています。各地に生育し、堅く重く、耐久性がたかい構造材の主役でした。ドングリの実から再生植林が出来るので、循環自然素材として重要な有用樹種です。

「いちゐかし」に関する詳しい資料:「いちゐかし」樫艪の木取り・材料・處理

(木材ノ工藝的利用調査書 明治45年 p.763 – p.768 鹿児島大隣林區小林區長尾事業區)

樫は、照葉樹林の代表的な常緑広葉樹で、温暖な地域に生育します。気象温暖化で次第に北上し、現在、長野県東信・中信地域の自然林にも現れ拡がってきました。

 

❹ アラ樫原木の樹皮と堅く締まる内部

樹皮は、ツブ状凸凹樹皮で芯央はくすんだ灰褐色まだら_堅くしまり、油気が少なく、板材に割れがはいる。粗雑な材質感があり、最も一般的な樹種でザッパ薪炭材(雑で半端)

❺ 伊勢湾海岸の木造船建造現場記録

 1987年の夏、船舶関連産業が多い伊勢湾地域ですが、千数百年の造船史をもつ伊勢大湊の舟大工の流れをくむ強力造船所を訪ねました。木造から鉄工船舶になった現在でも、作業員は「舟大工」と呼ばれ、墨壺(白墨)で鉄板に切断線を引く「罫ひき(罫描きケガキ)」を駆使しています。

事務所に明治期の建造現場作業の記録写真があり、ドックではなく、浜で造り上げてしまう和船の凄い技術が読み取れます。洋式の船体ですが、二艘は和船の構造イメージが残ります。

❻ うばめ樫について

 極めて堅く重いので樫という名称ですが、樫属ではなく、ブナ科ナラ属に分類されています。紀州ウバメ樫は、崖斜面南に生育し、小径木で備長炭になり、火力・熱遠赤外線が強く熱量が多いので上質な料理に使われました。カンカンと金属音がします。収炭率は、10~13% 程度で極めて堅い炭質です。

1987年の夏休みに、和歌山県田辺市近隣の炭焼きベテラン職人坂口さんの窯を訪ね、黒炭・白炭の窯出しの違いや森林伐採地を見学したことがあります。現場で多くのご教示を受けました、

幹は堅くしまり、馬の目のような丸っこい葉から呼ばれるのではないかという言い伝えを伺いましたが、伐っても蘖ヒコバエで数十年で再生する有用な森林循環再生_熱エネルギー資源です。

❼ 関連コンテンツ

① 白樫特有の材質

コモンセンスでは理解出来ない白樫材の不思議な挙動「板目取りが柾、柾目が板目性質」進化した不倒構造樹体・生存適応インテリジェントソリッド  Insight 木の内科-29

 http://kurayuki.abeshoten.jp/blog/14437

② 白樫材の斧鉈柄・ハンマー握り柄

 白樫斧鉈柄・ハンマー握り、及び ステト聴診ハンマー| 樫材堅木木工の現場 | 刃物をホールドし 手に馴染む疲れないベストマテリル 古代では「檮」、室町末期では堅い「樫」江戸期には諸々に使われて「櫧」から、明治からずっと「樫」に辞変。

http://kurayuki.abeshoten.jp/blog/14328

③ 白樫・欅材の生活用具

堅木木工江戸臼杵作り・堅木木工四代 150年の手仕事 | 白樫・欅の庶民生活文化財一式 | 台東区浅草橋鳥越

④ 青樫の木歴 牡丹入りの優良大樹 | 立木から伐採、製材工程、材質 、樹皮内層から成長する逆放射向芯組織・樫目髄線  経時変化の全てを| Insight 木の内科-8.

http://kurayuki.abeshoten.jp/blog/6077

 樫の木は大したものです。日本国内では、この樫材が潤沢にあり、金属材料に代わる有用樹種のおかげで、明治期までは、水車・車輪・建造物の軸構造材から、ほとんどの産業機器や道具類まで木製でした。

車大工は車両製造へ変わり、舟大工は造船工になりましたが、宮大工・織り物機ハタも専門大工仕事で残ります。木でつくれば、少ないエネルギーで必要なだけ生産でき、公害はなく殺傷力は低い。生き物に無理がなく_やがて灰になり、大地へ戻ります。「木の国・木の文化」と言われる由縁です。

※本稿では、明治期に使われていた「いちゐ」としました。「一位樫」漢字では、針葉樹と広葉樹の混り、わけが解らない感じです。学術的ではなく、似ている材色から、針葉樹イチイのイメージを被せて想起しやすいものが通用します。

ⓒ2022 , Kurayuki Abe

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木の総合学研究2022 「いちゐ樫・赤樫・白樫・アラ樫の材質の違いと用途」「ウバメ樫の備長炭」

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