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鉋は木工のシンボル | 台鉋の宿命台直し・調子を整える刃口口木入れ・木っ葉返し| ハンドツールジャパン極め造り替えと調整詳細|國政流の相伝ー11

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

本来、「鉋」は自作内製が基本です。明治中期に台打ち専門職が現れ、便利な出来合いの普通鉋登場、需要の多い大工職用のモデルでしたが、他の専門職は仕事にあわせて本刃研ぎ直し、造り替えしてきました。いつしか、鉋の性格が偏り、電動工具の時代に鍛冶職も衰滅していきます。

指物・家具・建具・楽器制作、精密木工では台直しに伴う「刃口と木っ葉返し」の調整は、微細で重要なテクニック。樹種が極めて多く、軟材・堅木、逆目・バイヤス斜目、節・杢もいろいろ。調子のよいものは転用したり崩せず、用途に合わせるので、自然と増えてしまうのがウレシイ。

刃口・木っ葉返しは、鉋の調子を左右する重要な要素

① 木っ葉返しの勾配・高さ・刃口の大小は、鉋の調子に大きく作用する。

② 鉋刃は、切れ刃の大小・刃先角・裏金によって削り上がりが違う。

③ 台鉋を使い込むと刃口は必ずいたみ、口木入れ(埋め木)をして修複、調整。

プロの仕事の質や技倆は、台頭や下端刃口にはっきり現れます。貸したり、みだりに見せるものではない。道具で腕前やキャリアを判断されるからです。

13代國政 相伝による鉋仕込み勾配と刃口・木っ葉返し調整

⑤ 八分五厘勾配 「堅木及び軟木」兼用

⑥ 七分五厘勾配 一枚鉋 スギ白太・サワラの軟材、桐に用いる

⑩ 立刃勾配 一枚鉋 台直し、「唐木用」

 

立て刃 (も作)

一枚鉋の部

⑦かね勾配一枚鉋、「唐木類の削り」に用いる

⑧九分勾配一枚鉋 「堅木」類に用いる

⑨返し刃・1寸六分勾配「唐木」用特殊鉋

包み彫りと普通平台鉋の新品刃口  (鉋台打ち名工 青山駿一作品)

 八分勾配鉋刃の仕込み勾配 (鉋鍛冶:碓氷健吾_台打ち:青山鉋店青山駿一)

台直しで台下端を削り進むと、仕上げ鉋包み彫りでは 0.5厘、普通鉋では約一分減ると口が空き埋め木を入れ修複します。顎先端が荒れて崩れてくる頃合い。西洋式押し鉋に比べ、切削精度・仕上がりが綺麗な日本台鉋は、切れ味・自由度が高い反面、台直しと刃口埋めをしなければならない宿命を抱えています。刃をしっかり咥える樫材でも、湿度による台の狂いがつきまとい、合わせ鋼鍛造刃先の錆びにも神経をつかう。この図では、碓氷健吾さんの説明を引き、裏金ウラカネは大工職用の刃先角にしていますが、家具・指物職は逆目を止めるために丸めます。

長台鉋の台直し減り 60年余りの活躍

簡易口木埋め技法の現在

工房ロクタル 服部 篤   http://www.rokutaru.sakura.ne.jp/blog/?p=3999(推奨掲載:承認済み201906)

オーソドックスで実際の手順が判りやすく解説されています。埋木材質は、損耗痩せをふせぐ樫の木口使いが原則です。

刃口埋め木の実際  刃口をみれば仕事ぶりがわかる

仕上げ鉋の刃口 顎端部が刃表の斜め仕込みでいたみやすい。使い続ければ、台直しで削るため台(厚み)がやせて、次第に刃口は拡がり、勾配が寝るほど刃口が大きくなります。

13代國政の中仕上げ鉋刃口埋め木

仕上げ鉋刃口・埋め木(國政)

調子のよい長台の刃口埋め木は次第に大きくなり(國政)

例外的な荒鉋アラシコの横切り簡易埋め木   ガンガンアラ削り専用(東 敦史)

口元を切ると白樫台の押さえ溝先端部は締めつけが弱まり、刃先はビビリます。押さえ溝が台の下端まで近づき、切り欠きが大きくなる。繊維組織を断ち、台のネバリ剛性が損なわれ、ダイナシです。絆創膏は、人にみせるものデハアリマセ

立刃脇取り 伊藤吉之助 (20世紀初頭)

小鉋の口入れ 伊藤吉之助 (20世紀初頭)

刃口 口入れ・埋め木 (台打ち専門職 青山鉋店青山駿一)

反り台鉋の刃口 内丸外丸は使用頻度が高く、口金・口木入れ 1993年まで数十年使用 (松本民芸家具職 東 敦史)

東型南京鉋Spoke Shave  リファインモデル 1997  柏木工房  柏木 圭

棒鉋 Spoke Shave 丸台の真鍮成形口金入れ1993   松本民芸家具職 東 敦史

調子のよい鉋は疲れず、仕事が捗り、綺麗な仕上がり

台鉋の切削メカニズムは、鍛造火造り、炭素鋼組成、焼き入れ、刃先角、研ぎ本刃付け、台入れ、重心位置、裏金合わせ、刃口、木っ葉返しなどの多くのパラメーターが関与します。良質の砥石を合わせ、台直し、被削材の含水率も影響してきます。木理、材質は勿論、削る腕力も大きく影響します。調子の良い鉋台は切れ味が永続します。研ぎ上がり、調子がイマイチの時は刃口をみる、台の動きを知ることも重要です。

優れた鍛冶職、台打ち職の仕事は少なくなり、高価で貴重なものになりました。樫台の木取りは、割り台板目(柾取り)が最上、関東江戸では追柾が好まれてきました。

この他、逆目やバイヤス(斜め木理)、節・瘤杢用の逆勾配 一分・二分・三分コケ鉋、突き鉋があり、針葉樹・広葉樹兼用の特殊鋼刃、逆目を止める裏金調整など、実際の仕事にあわせた削りの技が伝承されています。鉋はユニークな形がとても多く、ウッドワークの象徴ですね。

※ 材質や職種により、刃物の要求性能・評価がことなります。研ぎ・寸法・角度等は、自分で実削しつつ体得するものですから記載していません。

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木の総合学研究 2019 「鉋の刃勾配・口埋め木・木っ葉返し調整」

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