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「なぜ長くよく削れるのか日本平台鉋新考」- 続々      重心位置が刃先にある引き削り式和鉋と刃後に離れる押し削り西洋平鉋台の仕様比較 ネジジョイント圧締に勝る楔嵌合一体化構造 際立つシンプル優位性・合理的完成度 伝世品・裏金の識別 ハンドツールコネクション-14

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

長い時間をかけて伝承されてきた道具には、多くの工人が現場で工夫を重ね、洗練された技の結晶とも言うべき完成した形が備わっています。極めて優秀な日本の鑿・鋸・鉋の技術は、次第に世界へ伝播していきます。最近は、北米をはじめ、ヨーロッパ各地のワークショップで使われ、目をぱちくり、関心が高くなりました。

鍛造鋼地金合せの厚刃を楔状に打ち込む日本鉋(引き削り)と刃口を大きく開け、全鋼の平板刃に押え金を抱かせて締める西洋型(押し削り)では、全く逆の構造からくる性能差・特長がはっきり現れます。使えば即座に納得できる。

極めてシンプルで装着脱が素速くできる和鉋と複雑な装置化した現代西洋鉋モデルを比べると、

①構成部品数は 4:20 (単純で最小限ハンドメイドパーツと機械加工の複雑な機構)

②サイズ・重さは倍ほども違う。

③日本鉋は刃先に重心があり合理的、台に手を添え掴める。西洋式では重心位置が刃後にくるので逆になり、前方に押しつけ把手を握る。力ずくで押すので長切れや微細な操作は難しい。

④製品コスト差は約倍近い(標準品)

⑤日本鉋は刃の着脱が素速く、自作、改造が簡単

⑥西洋型は、熟練専問技能がなくてもそれなりに削れる。

⑦和式は台直しで削り減り、西洋型は台下端に堅木を接着するので刃物だけを研ぐ

西洋鉋はなぜ全鋼プレート薄刃なのか

① 刃の装着押さえで楔押さえがありながら、押さえ溝楔打ち嵌合の発想がなかった。

これは、ネジ締め付け機構を発明の影響が強い。

② 厚い全鋼刃にすると材料制作コストは跳ね上がり、研ぐのも大変疲れる。

③ 日本刀のように軟鉄合わせ鍛造技術がなかった。

④ 押し削りでは、台の重心が刃裏にくるので頑丈な鍛造刃では刃口バランスはよくない。

⑤刃口(Mouth – piece)は刃先側台上にあるネジで微調整します。(Smooth plane 仕上げ鉋)堅木のリグナムバイタプレートを刃口に埋め込み。

⑥針葉樹を平滑に仕上げる必要がなく、広葉樹材もスクレーパーで平面を出逆目を止めます。鑢・サンディング後塗装するので木地仕上げの段階まで長切れする必要性は乏しい。

⑦作業姿勢の違い 立位・座位 引き削り、押し削りの根本的な違いからくる刃先角や切れ味の違いが関与している。

⑧日本鉋の装着は材質や木目に応じて刃先角・刃口を変えますが、大鉋から小鉋・豆・極小まで、基本的に一枚刃・二枚刃も同じ構造です。

⑨西洋鉋は Iron(刃)をBed(刃表の馴染み)に押さえ楔締めで、刃は起き上がる。刃角度は、45°- 50°、あまり寝かせることは出来ない。寝台といいますがね。和鉋は四分勾配(約21.2°)まで。刃が台表に埋まるまで装着でき、針葉樹・木口を綺麗に仕上げます。

⑩西洋式では、刃幅は50mm 程度が限界、押え締められない。和式は、80mm以上の刃が無理なく装着できる。

⑪和式は刃を強く嵌め、斜め際・台の側面へ出して微細な加工ができる。刃型の自由度も高い。

⑫引き削り式は、微妙な刃当たりがコントロールでき、小物精密細工にも最適。

⑬押しつけ削る力にくらべて、引くほうが作業は楽にでき、床座作業姿勢がとれる。

⑭和鋼は切れ味は軽く、切削肌が綺麗で艶・光沢があり長切れ

⑮刃は研ぎ易い。良い刃がつく秀逸な天然砥石にも恵まれて来ました。

⑯良質な鋼と地金を合わせるので、高価な鋼材を節約できる。

⑰樫台は汗をひき、手触り馴染みがよく、疲れない。(塗装しない)

一番有り難いことは、国産白樫・赤樫の優れた材質に恵まれてきたことでしょう。

Primus – Reform – Putzhobel  Nr. 711  48mm  1989 Ulm  Ulmia GmbH にて購入

Spitzenerzeugnis   Spielfrei feinsteinstellbar   E・C・E   West Germany  seite 1852

ハンマーではなくネジで刃先を調整、まさに機械装置です。台直しという考えはなく、完全平面を維持するため台裏はリグナムバイタ柾目板を接着(複雑なフィンガーブロックジョイント)台本体はAhorn 欧州楓堅木材(二方柾)クリヤー塗装仕上げ 切り刃:全鋼プレス成形パーツを組み込む (No.12-48nCHR-VAN  PRIMUS ) 切り刃・裏金押さえは、レバー付きREGURATORでしめつける 特別な専問技能を必要としないメカですぐ使いタイプ。刃の固定・締め付けが足りないので、更に台尻から締める横ネジが装着されて、ますます複雑な装置に。

洋鉋は、台両側に刃身を挟み、楔状に打ち込むのではなく穴に落として嵌めセットします。「押え溝」のように刃をボデイにきつく嵌め、一体化することができない。全鋼で刃の厚みは薄く、カットした平板で刃先はびびります。更に、刃先角を鋭利に寝かせることができないため、ボデイが厚くなり、刃の仕込み角度は起き上がります。(ブレード刃角:45 – 50°勾配、刃先角25°)

更に、ハンドルや裏押さえ金(Cap Iron)金属部品が集まるので、重心は刃の後方になり、材面に密着させようとする押し削りでは浮き易く長切れしない。Tote 把手を握り台下端を強く押しつけ、長い鉋屑を連続して出すことが難しい。シルシュルフワリ連続鉋屑に驚くのです。

日本の平台鉋では、刃口切りライン(墨付け軸)刃先に重心がくるので、極めて安定した切削機構になる。

平台鉋では刃先より刃の出具合、台裏スキや台のバランスを感じ取り、反り台鉋や南京・棒鉋では、常に刃先位置、刃もあたりを意識して使います。重心を意識して削るという感覚はなく、削り屑の出方で調整しています。調子が良ければ、削り材に軽く当てて、引くだけで鉋屑がでる。

平台打ち(掘り・彫り・仕込み)は、刃口位置が台長の4:6が定寸とされ、削りの力配分とされています。刃口切りライン上から五厘、一分の台打ちが最も多く、最大二分の位置に集まり、先代伝世品もほぼ同じ比率です。

 刃の装着ジョイント方式の違いは、刃物構造と性能を左右し、削り精度に影響します。

国産樫材の台鉋と西洋鉋のビーチ・メープル材台との大きな違いは、堅さネバリだけでなく、刃物を固定するジョイント部にあります。ネジの締め付け強度からみると、台ボデイ溝に打ち込む方式は、はるかに強く緊結。楔型刃を打ち込む押さえ溝と裏金押さえ棒による圧締メカは、玄翁で叩くだけで素速く刃の出し入れができる利点があります。

押し引き動作、緊結に対する考え方・感覚の違いからも、鉋構造の違いが大きい。シンプルなほど刃が安定し、操作や修理も簡単、汎用性があります。切り削る刃物道具の違いは、生活習慣から発展してきましたが、大変面白いものです。

感覚的にみえる日本の台鉋は、精査すると合理的でメリットが多く、デザイン的にも洗練されていて、大変素晴らしいことが判りました。美しく総てに勝り、Simple is bestの典型です。

19世紀末のフランス式台鉋刃の装着構造(二枚刃・押さえ金裏刃を堅木楔締め)

S;DU MENUISIER  PAR  LEON JAMIN  1897   Tome Ⅰ

北欧のハンドル・Tote付き台鉋 (1825)「木と暮らすフィンランド展1997 」長岡市   970725ABE

二枚刃裏金(Capped Iron)の発明

18世紀初頭イギリスで1730年頃の考案とされる。1767年の広告(Philadelphia)記録が年代の根拠。

S; The Wooden Plane  ITS HISTORY,FORM, AND FUNCTION  by John M. Whelan  1993   p.35 Bench Planes – an over view     Astragal Press , New Jersey   ISBN 07945 – 0239

押し削り式西洋鉋では総て重心Gは刃後にあるのでヘッドを押しつけて削る

S; MODERN CABINET WORK FURNITURE & FITMENTS  by Percy A. Wells and John Hoper,M.B.E. 1909  LONDON  Fourth Edition  B.T,BATSFORD.LTD.

 各種洋鉋の重心位置は、すべて刃後にあります。Position of the center of gravity is located at behind cutting iron.

二枚刃鉋(裏金付き)の普及 煙草包丁の転用

台鉋二枚刃・裏金付け、押さえ棒構造の考案は、明治中期に西洋鉋からヒントを得たもの。

明治時代に入ると広葉樹材が多く使われだし、逆目をきれいに削るのが難しいため、西洋鉋の合せ刃を従来の一枚刃に押さえ金(Cap Iron)をつけた二枚刃を考案したもの。 明治38年(1905 )頃から押え金(裏金)をつけた二枚刃鉋が使われ始める販売記録があります。

(一枚刃は切削肌が光沢があり、綺麗に仕上がります。研ぎ・裏金・刃口の調整で逆目をとめることが可能ですが、熟練技能が必要。)

S; 三木仲買問屋「作清」黒田清右衛門商店卸記帳「三木金物問屋資料」 思文閣 1978 ISBN 4 78420 2846

■数寄屋大工名工(川崎寅之介)の伝世品

①銘:「瑞光」鏨刻:左 久作(池上喜作)

寸四 ・9分勾配 / 刃先角27°  刃幅 61mm   白樫追柾台  刃幅 61mm x 丈61.5mmH (研ぎ減り) x 厚み8.2 mmT( 刃先52mm)70g    炭素鋼鍛造二枚刃・煙草庖丁カット裏金  白樫割り台 / 板目 台打ち自作   木端返し埋木 刃口2mm   260L x 73W x 30H mm    700g     G重心位置:刃口切り縁から7mm  刃口位置比率 4.7 : 6.3     押さえ溝嵌め固定  刃再研摩  名作逸品、大正末期作 。

②銘:「菊弘」鏨刻 (新潟県)

寸八・8分勾配 / 刃先角24°    赤樫割り台 / 板目 包み彫り 小黒三郎商店(登録・卸 千代田区神田) 刃幅 71mm x 丈101mm (研ぎ減り) x 厚み9 mmT( 刃先52mm) 炭素鋼鍛造二枚刃・煙草庖丁カット裏金付き  台打ち自作 木端返し刃口埋め(2 – 木端返し10mm)

272mmL x 83mmW x 33H mm  969g    G重心位置:刃口切り縁から8mm   刃口位置比率 4.61 : 5.39   押さえ溝嵌め固定  刃裏に錆ガードの漆塗布 刃再研ぎ・裏金はR付け逆目とめ 切れる逸品、 昭和初期 。当面使わない時は、上質の鬢付け椿油(固形)で刃先のさび止め保護をしていました。

 伝世鉋古刃の記録・保存 裏金は煙草包丁から伴打ち鍛造へ

煙草葉を刻む煙草包丁は日本専売公社の払い下げ品で、格好雨の裏刃材。鉋鍛冶屋に売る専問商人がいました。幅は五寸程度で半切りし、右側上に機械取り付け穴がつくので判明します。鍛造高品質刃はピッタリ、リサイクルの魁けです。自動化されるまでの期間に払い下げ品が出回りました。良質な鋼材鍛造ですから、半分に割り耳を打ち出し曲げて嵌め込みました。長期間使用して押さえがゆるくなるとハンマーで打ち曲げて刃裏の締め付け強さを調節。装置取り付け穴があり、半身は穴無し。刃厚み(3.5  –  3.8Tmm)がおなじですので識別できます。裏金を見ると、煙草包丁を入れた鉋は時代が古く、専売公社払い下げが無くなると鉋鍛冶は別注高級品には共裏を制作し、並品安物は汎用の裏金を鋼板を切り合わせて仕上げました。同時に、刻印や押さえ裏金を見れば制作年代や品格がわかります。

鉋刃銘:星弘、國弘、玉弘、石堂、土牛、正扇、助造、重則、清近、康成、五郎、松弘、須磨人?

鉋サイズ:寸八 – 寸六 – 寸五   刃先角:23°- 24°- 25°- 26° – 27°- 28°  裏金: 煙草包丁転用、芳信、矩定、則和、利光、光成、岩堂 宗國、ほか

(明治 -大正時代 – 昭和敗戦後から1980年頃に東京六本木で精密木工所二代が使っていた鉋刃です。)

*鉋・刃物の研究文献

「ものと人間の文化史51  斧・鑿・鉋」吉川金次著 1984   法政大学出版会 0320 -21053 -7710

実際の鍛冶職を生業にしながら、歴史的調査・復元・検証を行い、鋸・鑿・鉋・斧の実際研究をまとめた貴重な文献です。

「刃物の味方」岩崎航介遺稿集  三条金物青年会編集発行      昭和44年2月 初版   A5   p. 180

平台鉋に関する記録資料も多くあり、現在使われている各地の作品傾向と重心バランス、構造的な工夫や工業デザインの進化をみたいと思います。

台打ち専門職ベテランは姿を消し、いずれは、昔のようにセルフ仕込みになります。國政流の鉋刃仕込み墨付け、台打ち技法は後述します。青山鉋店の作業記録は、國政流の台入れ相伝とともに、後日公開予定。

*写真画像は総て自然光で撮影。201003ABE

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木の総合学研究2017  「和洋台鉋考」「鉋台の重心位置比較」「楔ジョイント嵌合圧締とネジ締め付け機構」

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