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照り耀く名匠作と高評名工鉋レビュー | 鍛造史頂点を極める練達・卓越・至高 | 切れ味と美質を備えた究極の手仕事 ・ハンドツールジャパン | 知らない事を、見たことがないものを明らかに | 20世紀後半の名工作鉋比較論考・2020
「千代鶴貞秀、も作、碓氷健吾、貞時、宮本雅夫」時空を超えてきた名工作品の揃い踏み_見参。
トップレベルの作品を並べても、造りや品質・性能の違いが体験しないとよくわからない。技能は熟練した身体記憶。更に、制作現場の企業秘密・非公開では、明快な解説ができる先達もいません。一子相伝も生業として続かないために、高度工業化社会では手仕事の継承は極めて難しくなりました。まずは、名工作の素性から明らかに。
「千代鶴貞秀」と宮本雅夫「雲海」播州鍛冶の正統
「千代鶴貞秀」鍛冶職本人銘を刻む極めつきの自信作と見得ます。完璧なまでの仕上げ精度、美麗な表面処理、自銘を入れるのは唯一看板モデルであり、産地販売問屋への委託、非売・客先アピールと制作受注の役目を負う。銘打ち刻印メルクマールは、売り物ではなかったと気がついたのは半世紀後でした。冬の自然光の撮影では、白銀から夕焼けに染まり、寝かせば黒金の磨き光沢に表情が変わります。才能・品格の違いは歴然です。
本人銘 名匠ピークモデルは燦然と輝き、研ぎ無用_完成度を崩さず。
地金色・裏スキは自然光の入射角で妖変し、他作は位負けしそう。真冬昼時の撮影。
刃裏地金の芸術的な表面処理技術
斜前方から自然光が微細な雲打面にあたり、波長が長い橙・赤色が乱反射して夕焼け。
裏スキ部分は、蒼み素鼠に散乱 全く別の表情が現れます。この地金仕上げは、正面反射で白銀色、斜方入光で夕焼け瑞雲色 、逆光で黒鋼色に映ります。仕上げ処理手法は、X線分光・ビーム照射による金属表面・界面分析技術が進んでいますので明らかにすることができます。
宮本雅夫「雲海」は同じ播州三木鍛冶職。誠実な造りと痺れるような切れ味で高い評価が続きました。表の造り・裏スキが同様。刃裏銘「雲海」に「鍛冶三郎作」表芯央に「宮本作」鏨切り、真面目な自信作と思われます。グラインダー痕が消える前に直ぐ本刃付けとなりました。手練れは、後述の「碓氷」「も作」も同様です。
数寄屋の壁を彷彿させる鉋表肌 地金に微細な多重銑がけ仕上げが施され、銅下反射が現れる。意匠的にもコントラストをつけ、侘びさび茶室腰壁塗りのイメージでしょうか。
霧雨斜め横振り入念微細な銑がけに、 台馴なじみ具合を知らせる黒染め仕上げ。入射光の違いで妖変、テクスチャーは大きく変わります。鮮明な刻印は、造形センスや技術力を訴求する強いブランドマークとなります。偽物が多く出回った時代ですが、仕上げは極上別格。芸術的な造り込みです。他作の品を並べると、別格が際立ち、ノーブルな雰囲気で圧倒してしまう。半世紀後では、見ることも無い絶品幻の類い。
刃裏地金につける鋼の端部は、鍛接ラインがつきます。裏鋼と地金の境は、鋼の方が微妙に高くなっており、ここまで砥石に乗せると同じ平面で寿命まで、使いきることができる。丁寧な造りは、自ずと造りや使い勝手を語り、仕上がり外観からも耐用限度も読むことができます。この刃は、研ぎ果てるまで切れる。
「雲海」炭素鋼 刃裏スキは緻密で均一、綺麗な銑がけ。地金と鍛接鋼「かせ先」は幅広く、精度が高い。
台鉋の仕様と品質評価基準
材質・仕様・品質の違いを見るには、仕上げ技術精度、完成度を面精度と裏スキ、合わせ鍛鋼と地金と地金微細高さ、に着目しました。丁寧な造りは自ずと品質や使い勝手をアピール、仕上げ外観からもかなり判断できるのです。
材質・仕様・品質の違いを見るにあたり、外観仕上げの造り込み、鉋身の面精度と勾配・重さ、裏スキ、鋼鍛接地金のカセ先高さに着目しました。この微細な部分をどう造るか、品位を決める重要なクリティカルテクノロジー(決定的な重要技術)ですので、完成度の比較基準とします。鍛造地金は、裏だし・研ぎ易さを支配し、炭素鋼の組成は長切れネバリ耐久度に大きく影響します。
台鉋の品定め・評価項目 (明治から昭和時代)
① 鋼・地金原材料の種類・製造入手先
② 火造り鍛造の金属組成と表面処理
③ 体裁・作風・品格・美質
④ 裏スキ・鍛接鋼 かせ
⑤ 押え溝嵌合度(鉋身コバ楔勾配)
⑥ 精度・台馴染み喰いつき
⑦ 重心位置 刃口バランス
⑧ 台の材質 割り台・板目取り・追柾 含水率
⑨ 本刃付け・研ぎ進み具合 裏だし
⑩ 逆目・バイヤス、節・瘤あたり
⑪ 手鑢・銑・鎚 、グラインダー・ハンマー機械仕上げの区別
⑫ 長切れ 存分に削り仕事がはかどる (削りモノが苦に成らない)
⑬ 被削面の仕上がり 木肌の艶・美しさ
⑭ 既製OEM /別註・特注の区別
⑮ 価格・コストパフォーマンスと商品性
⑯ その他
※「台鉋刃口の重心位置バランス」は、西洋鉋との構造比較で究明した小職の視点で、長く良く、薄く厚く、切れる台鉋削りのポイントです。(但し、刃口調整が伴います。)
また、刃裏鋼鍛接端は、乱れない銑がけ仕上げがさりげなく残り、技能レベルが現れます。制作現場用語「かせ」は、緩やかに整えて地金につなぎ、裏スキ面を入り浜に見立てた「加瀬」若しくは「華瀬」のニュアンスでしょうか?職人用語は、現場技能を想起する身体記憶でもあり造りかえをしてはいけません。
このように、多くの要素がありますが、単純に優劣はつけがたく、値段でナットク。使い勝手と思い入れが大事ですので、総合評価はナンセンスと考えます。
鉋の善し悪し 性能評価はマチマチ
専門店頭では、名作・上等品・並製から、駄物・偽物・影打ちなどいろいろ売られてきました。見せるだけで購入しないと、舐める様な実測・撮影記録は不可。触れば錆びるし、売り物商品だから。財布と相談していては、手に入りません。
20世紀後半、評判が高かった職人ブランドはもう終焉していますので、凄腕は、これから先には無理難題。当時の専門技術知識やベテランの卓見は、次世代にも役に立ちますので、本職の所見やエピソード、記憶等をまとめておきます。
以下、次稿へ続きます。
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木の総合学研究 2020 「世紀末名工鉋の評価」「鍛造史に耀く世紀末名工作品の詳細記録」