「木」の文化クラフトフェア工芸

「ウォーキング ウイズ クラフト」寄稿 201405

阿部蔵之|木とジョイントの専門家

「クラフトフェアまつもと30周年記念本に寄稿しました。スペースの都合で入らなかった元稿全文を掲載します。

1984年 から31年間のサポートは各地へ波及しクラフトワークを育みましたが、更なる有用な波及効果や工芸の街域が大きくブレークしていく構想や提案につなげたいと思います。

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はじまる前から

「クラフトフェア」というネーミングですが、制作家の展示公開スペースの確保や作り手の交流が本来の目的でした。モノ売り・お祭りコマーシャルイベントにしないという運営方針できたので、参加出展者は、「他のクラフトフェアーと全く違う印象を受けました。来訪する人々は、はじめから買う気で知識もあり熱心です。

参加しているとプロの先輩や同じカテゴリーのひとがアドバイスしてくれたり,コンタクト、交流できる。会場の雰囲気が最高です。」という感想を沢山聞きますね。

私は、AQデザイン開発研究所という名前で「木とデザインの専門家」をやっています。学生の頃から松本民芸家具の池田三四郎さんのところに見学に来ていたご縁で蒔田卓坪さんと知り合い、付き合いが始まり、クラフトフェア開催企画・立ち上げの時に彼からSOSが来たので手伝うこととなりました。

直後は、開催運営資金がないので長野県の「匠の里推進事業プロジェクト」(伝統産業育成事業)を利用して、講師になってセミナーを開き、自分の講師料を寄付する形で6回ほど続けました。クラフトマン工房の仕事を軌道に乗せるノウハウ・マネジメントを教え、サポート。社会に有用な将来の活動イメージを若い人たちで模索したわけです。スタートのころは、東京の国分寺市に住んでいたのですが、数年後に松本に引っ越してきました。

クラフトフェアを始める前の行政に提出する書類づくりと折衝に関わったのですが、役所では前例がないということで随分難航したんです。最初は、門前払い。松本市役所の産業課と公園緑地課の見方は厳しくて、物販も飲食も禁止事項なので許可されません。「クラフトフェアなんて今までないし、市民は誰もきませんよ。県外から参加する人なんか居ないでしょう。」とガツンと言われて。

当時は、高度工業化・大量生産消費、ゴミ環境汚染問題が起きてきて社会問題になっていました。「手づくり」自分で作るこれからの時代の変化やトレンドにも合致しているし、学術的にも先駆的で有意義であることは明白だったので、強力にプレゼン。

日本デザイン学会家具木工部会からの推薦提案書や、大学関係者など賛同の署名もつけ、海外のクラフトフェアの関連資料も添えて再度市役所に出向き、直接提出し説明・説得。その時にようやく「1年実施してみるか」と許認の一言を得ることができました。

外来的・副次的な派生問題を解決する

記録の整理・編集作業は膨大な手間暇がかかるんですが、私はクラフトフェアまつもとに関連する書類や会場の写真記録をずっとファイリングして、きちんと整理してきました。運営している人は本当に忙しいので、こういうことをやるのは難しいんです。運営上、これは本当に大切な仕事ですね。

駐車違反で警察や参加者の管理が届かない事などで行政に潰されそうになったりもしましたけど、実績記録をきちんと提示説明することで理解を得ました。

実際、駐車場問題が出た時も、まとめておいた記録ファイルを当時の事務局長柏木 圭が市や議会へ直接持って行って説得し、理解を得られたんです。この団体はちゃんとやっているんだということでOKが 出て続けられた。

周辺でサポートをしていたのは私だけじゃなく、今ではもう関わってないような人も大勢いますけど、そうやって多くの人の尽力でクラフトフェアまつもとという場所、経済、教育、工芸、周辺産業なんかを含む、大きなムーブメントをつくって来たと思います。

見ないふりもしないし、頼まれないことも先に気が付けばやっておく。いざというときに探していては作業も間に合わないですから。人が動きやすいように、何かおきたらソリューションをさっと出せるようにしておくのもプロの役務の一つだと考えてきました。

時間をかけて到達したものは文化になる

現在は、素材も変わってきているというのもあって、従来のカテゴリーを越えたクラフトの新たなイメージを創出していく次世代のオペレーションが必要な段階に入ったと思います。その次の段階をどうデザインしていくかを考えるのは、今やっている人たちだけのフワッとした参集団体では継続しがたい。

もちろん、運営スタッフの無償の労苦や情熱は賞賛に値するものですが、井戸端になっちゃいけない。そこに、最初からやってきた人たち、比較的若い世代の人たち、そして次の世代の人達、そういった異なった世代ごとのジョイントが必要です。

外部からは、なかなかその持続する実質というものは見えないものですが、クラフトフェアという場は、きちんとデザインされてきたからこそユニークに発展してきたものだろうと捉えていますが、他のイベントとは何が根本的に違うのかをきちんと考え、立ち上げる時にどういう問題、経過の中での問題をどうクリアしてきたのかをわかっていてほしいと思います。

驚くほどに会場にゴミが落ちていないのは何故なのか、そういったことにもきちんと理由があるんです。

 アイデンティティを創り上げてきた時間を貴ぶ

手仕事を尊ぶ人たちによる30年間の営みの性格は、スタート前からの基本的な方向付けによって明確に決定づけられてきたと思います。蒔田さんの最初の目的は、モノ売りではなく本質的なクラフトスピリッツの追求にあるということをお伝えしたい。

なぜクラフトフェアまつもとが続いてるのかというのは、そこにあるんです。地域振興の文脈は後からついてきたものであるし、組織の運営マネジメントは、まだ途上ですが、とにかく行政主導や営利目的ではなかったプラットホームが最も貴重です。

こうやって「時間をかけてたどり着いたものが文化と呼ばれてくる」と気づけたことは有り難いと思います。県の森公園は、信州大学前旧制高校の元キャンパスですから次世代を育む環境として得がたい最高の場所だった事も幸いでした。

例年記録して気が付いたことに、来訪者の方々の身繕いにあるスタイル、クラフト生活を楽しもうとするセンスが目立つようになりましたね。AQ20140406、「ウオーキングウイズクラフト p.52 – p.55」20140517  発刊

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*はじまる前から現在までの出来事が沢山ありますので関連記事もリンクします。1985年クラフトフェア冊子 Vol.1 以来の寄稿です。
 山の湖畔を観光とファッションでイメージをかえたLugano Fashion Townのようにアートクラフトの地域拠点化・メッカとなる可能性も見据えて。
http://kurayuki.abeshoten.jp/blog/4060  クラフトフェアベストプロダクト−4.小林佐恵子の「創作くつべら」
http://kurayuki.abeshoten.jp/blog/3212 クラフトフェアベストプロダクト−3.酒井邦芳の漆匙
http://kurayuki.abeshoten.jp/blog/3086   クラフトフェアベストプロダクト−2.柏木 圭の「箸入れ」
http://kurayuki.abeshoten.jp/blog/3028     クラフトフェアベストプロダクト・柏木 圭のAUZUMA Spoke Shavesケイショウ
http://kurayuki.abeshoten.jp/blog/2951 クラフトフェアベストプロダクト−1 東 敦史の南京鉋(棒鉋 Spoke Shave)を次世代へ
*「工芸の街」を謳うには、クラフトミュージアムが必要不可欠なので具体的なイメージから
http://kurayuki.abeshoten.jp/blog/2866 まつもとクラフトハウスミュージアム構想
http://kurayuki.abeshoten.jp/blog/3661 Crafts Fair ロゴマーク入りTシャツストック
http://kurayuki.abeshoten.jp/blog/1205 クラフトフェア作品と展示構成の秀作-1.
http://kurayuki.abeshoten.jp/blog/1196 クラフトフェア作品と展示構成の秀作-2.
http://kurayuki.abeshoten.jp/blog/1189 CFMクラフト大賞提案
http://kurayuki.abeshoten.jp/blog/1183 1985 -2010 保存記録ファイル貸し出し
http://kurayuki.abeshoten.jp/blog/1173 1992, Arthur Carpenter:現れた木工芸作家 巨匠
http://kurayuki.abeshoten.jp/blog/1163 クラフトフェアは、デザインノウハウがいっぱい
http://kurayuki.abeshoten.jp/blog/1121 クラフトの新しいイメージづくり・ブランディング
http://kurayuki.abeshoten.jp/blog/1117 はじめの活動・資金捻出セミナー
http://kurayuki.abeshoten.jp/author/craftfair1987 ニュークラフトムーブメントを展望して・クラフトフェアまつもと Vol. 1 / 1987
http://kurayuki.abeshoten.jp/blog/1049  クラフトフェアまつもと はじまる前から

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木の総合学研究 2014 – 2019 「クラフトムーブメント」「Craftsは、次世代への生活文化遺産」

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